第126話

 王宮の地下にこんなものがあったなんてと思っていると、「ここだ」と言うアシュラフの声が響いた。ガチャガチャと鍵に穴が差し込まれる音がする。




 ギイッとさび付いた音が響いた。




「アシュラフ。もしかして君は四年間もこんなことを……」




 ジョシュアが、戸惑った声を上げていた。




「この男はな、もともと閉鎖的だった阿刺伯国を四年前にさらに閉ざそうとしたんだよ。隣国との食料の取引さえ禁じた。あっという間に民は飢え餓死者が出て、部族間の内紛がいくつも起こった。




 欧羅巴の連中は、阿刺伯国が荒れるのをほくそえんで見ていただろうよ。この国が内部から弱れば簡単に黒い水が手に入るからな。だから、俺がこの男を王の座から引きずり下ろした」




「サライエの港に降りた瞬間から、あの頃とは比べものにならないぐらいこの国が変わったことがわかったよ。欧羅巴の文化が流れ込んでいて、物が溢れていて、多くの人が笑っていて、どこも活気に満ちていた。父が寝付いたことにして、君がこの国を変えていったんだね」




「若造だと、部族の長や富豪たちに舐められる。狂王と恐れられていた父の名前を、この四年間存分に使わせてもらった」




 足音が近づいてきて、ミオは階段を足を忍ばせ駆け上り、別の階に隠れた。険しい顔をしたアシュラフが通り過ぎて行く。




 完全に足音が途絶えてから、恐る恐る階下に向かった。




 ジョシュアが一番端の牢の前で、鉄格子を掴んで立っていた。




 ミオに気づいて、表情を曇らす。




「す、すみません。ジョシュア様の様子が心配で、後をつけてしまいました」




「こっちまで来て、牢の中を覗いてみる勇気はあるかい?君を間接的に苦しめた男がここにいる」




「あ……と、その」




 話の内容からして、ジョシュアとアシュラフの父親、つまり昨日まで民に王と思われていた男が閉じ込められているのは分かっていた。


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