第97話

「いつもいつも、俺のことを馬鹿にして、あざ笑って、鞭でぶって!火の海に沈めばいい」




「ジョシュアがサミイを英国に連れて行かなかったら、阿刺伯国と英国の関係も悪化し、お前もやがて火に焼かれることになるぞ」




「『白』なんて、生まれながらに火に焼かれているようなものです。それに、俺はこのままいけば二十歳を迎えることも叶わないでしょう。ちょうどいいです」




「いいや。お前は、まだまだ生きる。俺が、召し上げる予定なんだから。涼しい王宮で、手紙でも書く仕事をしながら、のんびり生きていけばいい。望むなら、マデリーンの話し相手の仕事もある」




 サライエで客引きするより何十倍も楽な仕事だ。以前のミオなら飛びついていた。




「ジョシュア様の傍にいさせてください。サミイ様の邪魔はいたしませんから。どうか。二人の姿を、遠くで見ているだけでもいいのでどうか」




 泣き叫ぶと「駄目だ」と、アシュラフがそれまで優しかった声色を変えた。




「ジョシュアは、お前にも優しくしようとするだろう。サミイも、おそらくお前に遠慮する。そして、また心を病む。俺には事情があって、サミイとはもう一緒にはいれない。




 あいつを安心して預けれるのは、ジョシュアだけだ。サミイを英国に連れ帰ったジョシュアは、気をよくしてグレートマザーにも阿刺伯国のことをうまく報告してくれる。




 お前が犠牲になってくれるなら、全て丸く収まる。許せ、ミオ。お前には、悲鳴を上げるほどの贅沢をさせてやる」




「だったら、ジョシュア様を俺に下さい。贅沢させてやるというなら、ジョシュア様を」




 アシュラフがミオの鼻を拭った後、ぐっと抱きしめてきた。




 彼なりの謝罪なのだろう。




「ジョシュアが欲しいだと?生意気な」




「お怒りなら殺してください。もう……死にたい」




「強そうに見えるが、お前も根の部分はサミイと一緒だな」


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