第81話

「……ミオさん」




「あ……う……」




 ここまできて怖気づく。相手は、阿刺伯国を戦火から守る神のような存在。自分は最下層奴隷でおまけに『白』。天と地ほど身分の差がある。




 自分にかけた魔法が、一瞬で解けた気がした。




 涙が、滝のように溢れ出した。




「ジョシュア様ぁ……」




 幕に包まれた輿から顔を出してきた『白い人』に辺りからどよめきが上がった。前から後ろから、人が輿に向かってやって来て北斗星号は輿の傍まで寄せられた。




「ミオさん。サライエで会おう。新王の結婚式が終わったら、サライエに飛んでいく」




 泣きじゃくるミオを見て、ジョシュアが慰めてくる。




 突然、十字星号が止まる。兵士に堰き止められたのだ。ジョシュアを乗せた輿がどんどん遠ざかっていく。




「いいね。大人しくサライエに戻るんだ」




 ジョシュアは叫んで、輿の中に再び身体を据える。




 捲れ上がった幕が、おつきの者によってすぐさま閉じられた。




「ジョシュア様ああああっ」




 ミオは声の限り名前を呼んだ。輿に向かって嬌声を上げながら押し寄せていた民衆がびっくりして皆、しんとしてしまうほどの大声だった。




 泣き叫ぶ声にジョシュアが再度幕を跳ね上げる。




 ミオは、十字星号の背を蹴って輿に向かって飛んだ。




 ジョシュアの両手が広げられる。ミオは腕の中に飛び込みしっかりと抱きかかえられた。ようやく自分の居場所に戻ってきた気がした。

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