第82話

「かなり無理をしてここまで来たんだろう」




 熱い首筋を触ってジョシュアが嘆く。




「……申し訳…ありません」




 出会えたことに安心して、ミオに膨大な疲れが押し寄せてきた。腕の中で喘ぎながら聞く。




「ジョシュア様は、本当は『白の人』だったんですね。サライエで輿に乗り込んだのは、ジョシュア様に似せた方だったんでしょうか?」




「僕が船からいなくなったので、ダミーを乗せたんだ。僕は、阿刺伯国と英国の友好の存在らしいからね。こんな姿、君に見せたくなかったよ」




 輿が止まり、兵士が叫び続々と周りを取り囲む。




「狼藉者。輿から出ろっ!!」




 兵士が叫ぶ声がする。ジョシュア以外の人間の声がひどく遠かった。




「騒ぐな。この子は、僕の旅の案内人だ」




とジョシュアが兵士たちに言った。




 外は、ざわめいている。




 ジョシュアが、何重にも輿の幕を下ろしたので、中は薄暗くなった。




「御自分のことが、そんなに嫌いなのですか?」




「え?」




「サライエで『白の人』のパレードを見て、馬鹿騒ぎって冷たくおっしゃったから。今も友好の存在らしいなんて、突き放した言い方。でも、阿刺伯国の民にとっては戰から持って下さるありがたい存在です」




「ミオさんも『白の人』のことを嫌いな感じがしたけれど、僕の勘違いだろうか?」




 ミオは、痺れて力の入らない腕をなんとか持ち上げてジョシュアに見せた。




「似たような肌の色……俺は病気でらしいですけど、けど、同じ白色なのに、どうしてこんなに扱いが違うんだろうとずっと思ってました。俺は立っていれば石を投げられるような存在ですが、『白の人』は違います。みんな、涙を流しながらひれ伏します」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る