第77話

「十字星号。イリアの街まで頑張ってくれ」




 ミオは、嫌がるそぶりをみせるラクダをなだめて立ち上がらせた。




 短い間隔で三個目になる滋養剤を口に含み、オアシスを出てカンカン照りの砂漠を駆けだす。あっという間に濡れたサイティは乾いていく。冷たいオアシスの水に詰め替えた革袋の中身も、すぐにぬるくなった。




 クラクラして十字星号の首に抱き付くと、ラクダは首を捻って不安げにミオを見る。




 頭が割れそうに痛い。何個も滋養剤を飲んでいるのに、楽になる様子が一向にない。




 ふいに声がした。




「おい。旅の人!荷物をいっぱい積んだ欧羅巴の行商の人!!」




 目を開けると、十字星号は砂漠の真ん中で立ち往生していて、隣にラクダに乗った青いサイティの男がいた。ジョシュアぐらいの年齢の青年だ。




「……タンガ様?」




 あまりの熱さに、幻を見たと思った。目の前の青年は、テーベの街で会ったタンガより十歳ほど若返っていた。




「タンガを知っているのか?あれは従兄だ」




 サイティのポケットから小瓶を取り出した青年は、ぎりぎりまでラクダを近づけると、北斗星号の背に突っ伏しているミオを無理やり起こし、鼻の粘膜に塗りつけてくる。




「いっ……」と叫び声を上げた。鼻が焼けるほど痛い。




「目が覚めたか?今のは、気付け薬だ。効き目は短いが、瞬時に頭がすっきりする」




 日中、どうしても砂漠を越えなければならない男たちが、暑さで頭がやられかけたときに使うものだ。


「あんた、こんな場所でラクダを止めて、何やっているんだ?道に迷ってしまったのか?」




「……イリアの街まで行きたいのです。人を……誤解を受けて掴まった人を、救いに行かなければならないのです」




「どういう理由があるにせよ、止めておけ」




 ミオは頭を数度振った。




 気付け薬のお蔭で、幾分、すっきりしている。


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