第76話

「意識が……飛ぶ」




 ミオは十字星号の背中に突っ伏した。身体中から水分が蒸発し痺れを覚える。




「向こうへ。とにかく前へ」




 命令を飛ばし、なんとか十字星号を駆けさせる。




 意識が一旦途切れ再び目を開けると、緑が溢れていた。空気がひんやりしている。




「……オアシス」




 十字星号が、水の匂いを嗅ぎつけてたどり着いたようだ。奇跡のような芸当に、ミオは十字星号の首にすがりついた。




 「座れ」と命令して膝を折らせる。




 転げるようにして背から降り、這ってオアシスへと向かった。




 冷たい水に浸かると、熱せられた肌がじゅっと音を立てたような気がした。




 浅瀬に仰向けになって、ミオは浸かり続けた。飲み過ぎた滋養剤のせいなのか、胸の鼓動がおかしい。


 半刻ほど浸かり続けていると、身体が痺れるほど冷たくなってきた。熱さにやられ、ぼうっとしていた頭ははっきりとしてくる。




 十字星号は、荷物を背に積んだままオアシスの水を飲んでいた。




 ミオは、なんとか湖面から起き上がり、軽くサイティを絞った。そして、十字星号の背に積んだ旅の荷物から、テーベの街で仕入れた果物を取り出しオアシスに放り投げ冷やす。




 食欲はなかったが、無理やり干し肉を食べ、パンを飲み込むようにして胃に入れた。




 十字星号に口を開けさせ果物を二、三個与えた。ミオも湖面に浮いている果物をすくって口に運ぶ。


 雲一つない真っ青な空を見上げた。




 太陽は今、天のてっぺんにある。




 十字星号を頑張って走らせれば、イリアの街に夜に着けそうだ。だが、砂漠の日差しは昼から夕方にかけてが一番きつい。




 耐えきれるだろうか。




 でも、ジョシュアに会いたい。




 王のように丁寧に扱われているといっても、拘束を受けているなら不自由に違いないだろうから。

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