第72話

 日差しを避けながら通りを歩いていく。ラクダを売り買いしている通路にやってきた。


「坊ちゃん。お若いのに、一人でラクダのお買い求めを?大したものだ」と揉み手で寄ってきた行商人は、ミオをラクダの厩舎に案内した。


 だが、勧めてくるのは怪我をしていたり病弱そうなラクダばかり。しかも、値段は通常のラクダの倍以上だ。ミオを異国の人間と思って、ラクダの通常価格を知らないと思っているらしい。


 ミオは厩舎の奥にいた胸が十字に白い毛でクロスしている雌のラクダを選んだ。蹄がしっかりしていてどこまでも走れそうだ。賢そうなつぶらな瞳も気に入った。値切りに値切っても、カードゲームの分け前がほとんど無くなる額だったが、ミオは購入を決めた。


 市場で、日持ちする食料など砂漠の旅に必要なものを集めた。


 宿に戻って、すぐさま荷物をまとめる。


 二つあった木箱のうち、一つはジョシュアが砂漠キツネの巣穴を探すために持っていった。金属の棒が入っていたそれは、今は空箱になっているだろう。


 もう一つの長い木箱をそっと開けてみた。中身は大小さまざまな木の板で布や糸もある。何に使うのかよくわからないまま蓋をし、きっちりと縄で縛った。


 残されたトランクに、先ほど洗って窓辺に欲してあったサイティを入れる。ほとんど衣類だったが、ひなげしのような美しい黄色の液体が入った小さな小瓶が一つ入っていて、割れないようにタオルとサイティの隙間に詰め込んだ。


 ジョシュアと自分の荷物を、新しいラクダの鞍の上に積んでいく。


 荷造りを済ませた頃、日が傾きはじめた。


 宿の女将に挨拶も済んでさあ、出かけようと思った瞬間忘れ物をしたことに気づいた。枕元にジョシュアの本が置きっぱなしだ。急いで取りに戻って一番上に積んだ自分の荷物の中に滑り込ませた。


 テーベの北の入り口まで行き、水飲み場でラクダに水を飲ませる。


 そして、ミオは革の小袋から白い粒を取り出す。


 あまり質のいいものではないから飲まないようジョシュアにきつく言われていたが、砂漠を一晩滋養剤なしで駆け抜けるのは難しい。おそらく、今飲めば真夜中に効いてくるはずだ。


「ジョシュア様。言いつけを守れなくてごめんなさい」


 口に含むと、ドロップと違う苦い味が舌の上に広がる。


「こんなに、不味いものだったのか」


 ミオは、皮袋に入った水で滋養剤を流し込んだ。

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