第57話

 ジョジュアの腕の中で眠り、再び目覚めると、宿の狭い部屋は夕闇で満ちていた。


「ジョジュア……様?」


 ミオは寝台から起き上がり、辺りを見回す。


 彼からの返事はなかった。


 まるで、昔からミオ一人だったみたいに、部屋は静まり返っている。


 ミオは窓の外を見た。


「今は、夕方?嘘だ。俺、昨夜からどれくらい寝続けたんだろう」


 奴隷として働いて、今まで一日たりとも寝過ごしたことはない。少しでも決められた時間より起きるのが遅ければ、どやされるだけではすまないからだ。


 たっぷり眠ったはずだが、まだ身体は少しだけだるかった。


 部屋の扉が開く。


 手に食料がいっぱい入った籠を持ったジョシュアが、「ああ。起きたんだね」と笑顔を浮かべ傍に寄ってくる。


 部屋はさらに暗くなり、窓辺にあったランプが灯された。


「今夜も砂漠キツネを見に行かれるんですよね?俺、すぐに準備します」


 寝台から出ようとすると、押し戻された。


「他の人に頼んだよ。ミオさんは、相当疲れが溜まっているようだから、大人しく寝ているんだ。昨日みたいに迎えにきてはいけないよ」


「これぐらい、全然平気です」


「君が気絶したかのように眠るのが心配で、実は日中に医師を呼んだんだ。君の身体をあちこち調べて、灼熱のこの国に適していないと難しい顔をして去っていった」


「俺は砂漠の案内人です。仕事が出来ないなら、ジョシュア様の傍にいられなくなってしまいます」


「今日、明日のことではなく、もう少し先のことを考えたらどうだい」


 ジョシュアが、寝台横にある小机に、買って来た食料を並べて行く。

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