第55話

 ジョシュアは、ミオの両腰に手を当て、よっと掛け声をかけて抱え上げる。


 落とされまいと反射的に足が開き、ジョジュアの胴体に足が絡む。尻に手を当てられ、しっかり支えられた。


 ジョジュアはミオを抱えたまま、狭い部屋をくるくると動き回る。


「ねえ。僕と何をするのが好き?」


「どうして、軽蔑してくれないんですかっ?」


「それは、単なる君の癖だと分かっているからさ。傷つけれることに慣れきっていて、僕に褒められたり優しくされたりすると、いつもと違うから落ちつかなくなるだけだ。そして、わざと嫌われようとする。


昔、出会った人がそうだったから、よくわかるよ。あの頃の僕は、何も理解してやることができなかったけれど、今はどうすればいいのか知っている」


 ミオは、ジョシュアにじっと目を見つめられた。


「本当は、あんな姿を晒した上で受け入れて欲しかったんじゃないのかい?」


 瞬間、雷に打たれたかのような衝撃がミオの心に走った。


 激しく首を振る。


「そんなことっ、思ってませんっ」


 悲しみとは違う大粒の涙が零れて、頬をつたっていった。


「だって、俺自身が、こんな自分を受け入れられない」


「君が無理でも、僕は受け入れるよ。君は可愛い。綺麗だ。素直になれないところも、臆病な部分も好きだ。他人に献身的に尽くし、自分の欲には控えめな部分も。君のいいところは、まだまだあるよ。一晩中、語ろうか?病的に与えたがりな僕を、見くびってもらっては困るなあ」


 ジョジュアは得意げな顔をした。


「ねえ、何が好き?僕にあれだけ言わせたんだ。ミオさんも言って欲しいな。それとも、僕との時間はただ苦痛なだけだった?」


 手が痺れてきたのか、ジョシュアは、またよっと掛け声をかけて、ミオを抱え直す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る