第6話
「ドロップ缶の代わりに、別のものをもらっても?」
「俺の出来ることなら喜んでっ。何なりとお申し付けください」
「少し寒いから、温めて欲しい」
「すぐに、火を起こしますっ」
さんざん冷たい水に浸かり、やっぱりジョシュアは身体が冷えていたのだ。責任を感じて、木切れを集めるために駆け出そうとすると、
「今がすぐがいいんだ」というジョシュアの声が背後からした。
振り向くと、ブランケットの端が持ち上げられている。
「え……?」
「寝床の世話をしろと言っているわけではないよ。添い寝をして欲しいんだ」
「俺が……隣りに?」
「何もしなくていいし、僕からも何もしない。さあ」
ブランケットの端が、ミオを誘うようにひらりと揺れる。
最下層奴隷で『白』の自分が、あんな上等な身体を温めるなんてそんなこと……。
「あ、……う……」
混乱して、まともに喋れなくなった。
「これも仕事のうちだよと言えば、ミオさんは従ってくれるの?」
ミオは、観念してそろそろとジョシュアに近づいていった。
距離を開けて、真横に寝そべる。ジョシュが肩までブランケットを引き上げてくれた。
誰かと一緒に眠るのは、物ごころついて初めての経験で、心臓がうるさいぐらい音を立てていた。
「もう少しこっちに。ブランケットに収まりきらない」
背中に手を回され、引き寄せられた。ジョジュアの胸のあたりに、ミオは顔を埋める格好になった。
寒いから体温が欲しいと言ったジョシュアからは、なぜか温もりが伝わってきた。
ミオは、ジョシュアが外でもなく、濡れた天幕の床でもない寝場所を与えてくれようとしたのだとようやく悟り、小さな声で礼を言った。
「何か、言った?」
ジョシュアは、ミオの首の下に腕を差し込みながら聞いてきた。
ミオは、首の下の腕をチラチラ見ながら口ごもる。
「いえ、そ、その」
それきり黙ってしまうと、ジョシュアがミオを安心させるように背中をトントンと一定のリズムで叩いてくる。
「明日行くオアシスでは、砂漠キツネは見られるの?」
「えっ……と。主人には、砂漠キツネが見える旅ができますよ、と欧羅巴の方に伝えろと言われているんですが、本当は‟(シーズンによって)砂漠キツネが見える旅ができますよ”というカッコつきというのが正しく……。ここらですと、雨季の間際ならたくさん見ることも可能ですが乾季の今は……」
「そう。なら、巣穴を案内してくれるだけでいい」
語尾が深いため息とともに終わった。どうかしたんですか?と問いかけたかったがその前に、「おやすみ。ミオさん」と囁かれぎゅっと抱きしめられ、じっとしているだけで精いっぱいになった。
視界に入るだけで嫌がられる自分が、美しい男の腕に抱かれて眠る。
今だに、それが信じられない。
今朝は、そんな一日になるという予兆など、全く感じさせない普通の朝だったのだから。
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