第5話
夜着を身につけ終わっても入り口に佇むミオに、「おいで」とジョシュアが手招きする。
包帯と消毒液が、ジョシュアのトランクから取り出された。
「濡れてしまっただろうから、巻き直すよ。こっちに」
横たわっていた場所に座ろうとしたら、水でびしょびしょに濡れている。ジョシュアが熱がるミオを冷やしてくれた跡がくっきりと残っていた。
旅の旦那様を怒らせないよう常に気を張るだけでいつも精いっぱいだったが、今回ばかりは、こんな自分に触れて介抱してくれたことに対して、感謝を示したかった。
手当てが終わると、ミオは天幕の端に寄せられていた荷物の底から、ドロップ缶を取り出した。
以前、英国の客を砂漠に旅に連れて行った際に、余ったからあげると言われたもので、昔は三分の一ぐらいドロップが入っていた。
それを、ジョシュアに差し出した。
「僕に?」
彼は、ひょいとミオの手の中のドロップ缶を取って、耳元で振った。
「中身はドロップじゃないな」
音を確かめたジョシュアは、蓋を開けて覗き込んだ後、缶を傾け手のひらに出した。
「この国で、一番少額の硬貨だね」
「奴隷の俺が、旅の旦那様にこんなものを差し上げるのは、おかしいと分かっています。ラクダも、旅の荷物も店主のもので、俺の持ち物で一番大切なものといったら、これしかないのです。どうか、お納めください」
「随分頑張って貯めたみたいだけど、何か目的があったんだろう?」
確かにその通りだった。たまに貰えるチップを大事に貯め続けてきた。
どうしても欲しい物があったのだ。
「お願いします。どうか」
言いよるとジョシュアは、ドロップの蓋を閉め返してよこした。
「受け取れないよ」
ミオは情けない笑顔でドロップ缶を受け取ると旅の荷物に仕舞い、天幕の外に出て行こうとした。
「どこに行くの?」
ジョシュアが、怪訝な顔で聞いてくる。
「少し睡眠を取らせていただこうかと思って。砂漠の案内人は、火の番をしながら眠るんです」
「たき火は、消えかけているよ。また一から火を起こしていたら、朝になってしまう。遠慮せずに、こっちへ」
ジョシュアは、先ほどまでミオが横たわっていたあたりをひとしきり手で触れ、困った顔をした。
それから、天幕の端までぐいと身体を寄せ、ブランケットを被りながら言った。
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