21

 

そんなやり取りを中断ちゅうだんさせるように少女がつぶやいた。


『もうくよ』


見ると都市を外界げかい隔離かくりする壁が、

近付ちかづいて来ていた。


不思議な事にそのずっと手前から見えるはず

エンペストタワーの姿はどこにもなかった。


とっその時、車内に唐突とうとつに、

緊急事態きんきゅうじたいげるアラームが鳴り響いた。


車内の窓が一斉いっせいに黒くまる。


それはまるでモニターの電源を切ったような感じで。


シャッターを閉めた様に完全に光を遮断しゃだんしていた。


車内は再び地下鉄さながらの闇に閉ざされていた。


非常ランプが(EMERGENCY)の文字を浮かべていた。

(エマージェンシー)すなわち緊急事態だ!


黒くりつぶされた窓が、

ガラスの光沢こうたくを残していた。


「ノングレア処理されたパイレックスの窓だ。

 (電流で分子の配列を変え、光を遮断しゃだんするもの)」


ナビが親切しんせつに説明してくれる。


その意味を咀嚼そしゃくする前に少女が割って入った。


『それよりクロムバイザーを着けて!』


言われるままに装着そうちゃくした。


途端とたん陰惨いんさんな闇は消え失せ、

あたりは明るさを取り戻していた。


赤外線スコープさながらの赤みは多少あるものの、

ほぼ支障ししょうなくあたりが見渡みわたせる。


【説明してるひまはない。今すぐ列車を降りるんだ】


ふたたびナビの声が鼓膜こまくの奥から聞こえる様に響いた。


バイザーから直接声が響いている。


どうやら通信回線に切り替えたようだ。


「降りるってここに?」


『シッ』


少女が僕の口をふさいだ。


【時間がない】


両サイドの車両から、

浮遊する燐光りんこうせまっているのに気付く。


あれは?


【ストラムだ!

 不法入国者を探している。時間が無いぞ!】


ストラム?コープの事か!?


こちらではストラムと言うらしい。


たしかに迷っているひまはなさそうだ。


少女の手をつかみ下車しようとするが、

少女は何故なぜか固まっていた。



「どうした?」



少女は車窓を見つめ固まったままだ。


その視線を辿たどる。



そこには黒い波紋はもんを広げ波打つ窓があった。


 

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