16

 

鳥籠とりかごの住人。

 無理むりにこちらの世界に並行世界へいこうせかいつくったから、

 2つの世界がいびつゆがみ、かさなって存在そんざいする世界 』


その言葉でふとある事を思い出した。


どこにでもある都市伝説の一説。


それは地下鉄に少女の霊が出るだとか言う、

り来たりのものだった。


少女を見つめまさかなと嘆息たんそくする。


少女には何回もれているし、

ここは霊界ではなさそうだ。


思わず苦笑いがれていた。


少女はそんな僕の様子ようす怪訝けげんに思ったのか、

質問してくる。


『どうしたの?』


僕は苦笑にがわらいを噛み殺してそれに答えた。


「いやなんでもない。

 一瞬君が幽霊じゃないかなとか」


少女はきょとんと僕を見つめ思案しあんを始めた。


「いや別にそんな深い意味は無いんだ」


少女はそれを真面目まじめに受け取ったようだった。


『それ面白い視点』


少女は何かに気付いた様に呟いた。


『実はこのクロムバイザーで、

 もう1つの世界が見える』


少女は僕が手に持ったバイザーを指差す。


並行世界へいこうせかい

 あなたの住む世界よ』


少女は僕の持つバイザーを取って、

耳元に付いたダイヤルを回し始める。


『これで大丈夫!

 もう一度つけてみて』


僕はおずおずとバイザーを受け取ると頭にかぶった。


途端とたん先程さきほど乗っていた乗客達が、

幽霊のようけて見えた。


感受性かんじゅせいゆたかな人の中には、

 バイザー無しで見える事もあるみたい』


その言葉を聞き流しながら目は、

あの不審ふしんなコートの男の姿をらえていた。


男は首をかしげながら、

トイレから出て来るところだった。


僕は近付いて一瞬開いたコートの内側をのぞき見る。


内ポケットに黒光りする拳銃が見えた。


僕はあらためて少女を見て質問していた。


「君、いやノワール。

 君はねらわれているの?」


少女は首をかしげる。


『どういう意味?』


僕は頭を整理せいりして説明した。


 

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