15

 

少女は僕を見つめたまま、

無言むごんで手にしたバイザーを僕の頭にかぶせた。


途端とたんあたりの風景ふうけい一変いっぺんし、

僕の知る近代都市きんだいとし眼下がんかひろがっていた。


その展望てんぼうに見いっていると、

どこからか地鳴じなりに轟音ごうおんひびき始めた。


地震じしんなのか都市はれだし、

土埃つちぼこりの中にしずんでゆく。


僕は宙に浮かびその様子をながめていた。


禁断きんだん果実かじつを口にした人類じんるいは、

 神の怒りにれ、都市は崩壊ほうかいしたの』


彼女は世界のかたであり、

その言葉は天地を切りやいばだった。


土煙つちけむりの中にしずむ都市をながめながら、

少女のかたるような声は続く。


地盤沈下じばんちんかで沈んだ都市』


ちゅうおよようにして都市ごと落下らっかしていく人々。


地鳴りにかき消されながらも聞こえてきそうな

悲鳴ひめい阿鼻叫喚あびきょうかんの声、形相ぎょうそう


その圧倒的あっとうてき時感描景じかんびょうけいを前に、

僕はたまらずバイザーをはずしていた。



ハッーハッーハッー


けたあら呼気こきが、

浮き輪のような湿しめった音をたてていた。


それが自分のものだと気付きづくのに、

しばしかかった。


少女は僕が落ち着くのを見計みはからって、

話を続けた。


『この列車は当時地下鉄が走っていたルートと

 同じ場所に作られているの。


元々もともとあった地下鉄は地盤沈下じばんちんかしずみ、

 今はずっと下に埋没まいぼつしている。


 その本来あった地下鉄のルートと同じ場所に、

 この鉄道は作られているの。


 今では都市の上空を走る形になっているけど』


僕は網膜もうまくに焼き付いた残像ざんぞう咀嚼そしゃくするように、

あらたまって廃墟はいきょした都市を見下みおろしていた。


「これが現実げんじつ


信じられない現実を咀嚼そしゃくする様につぶやく。


『心配しなくても

 あなたのいる世界の現実ではない』


僕を気遣きづかう様に少女は言った。


その気遣きづかいに一言ひとことかえすのがやっとだった。


「ありがとう」


それ以上の言葉が出て来なかった。


『そうじゃない。

 これはずっと昔に起こった事。

 あなたのいる世界とは関係かんけいないの』


少女が何を言いたいのかわからず、

その表情をうかがう。


『ソーヤの住む世界は、

 この事実が起きなかった歴史、

 世界なの。


 擬似的ぎじてきかぎられた空間につくられた

 並行世界へいこうせかいではあるけど。


 そのため

 そこの住民は都市から外には出られないの』




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