14

気がつくと少女がバイザーをし出していた。


そのバイザーを受け取り茫然ぼうぜんと彼女を見つめる。


「君はいったい?」


そんな僕の手を取り彼女はトイレの扉を開いた。


『未来』


彼女の心の声を聞いた気がした。


同時に横から彼女の肩に向かい影が走った。


リスさながらの俊敏しゅんびんさで肩に飛び乗るナビだった。


僕は彼女の手に引かれるまま、

トイレから連れ出されていた。


その瞬間、頭によぎった不純異性交遊ふじゅんいせいこうゆうの文字に、

一瞬足がすくむ。


衆目しゅうもくさらされる羞恥しゅうちに自然と顔が強張こわばった。


だが予想よそうはんして、

聴衆ちょうしゅうややかな視線は無かった。


それどころか車内は閑散かんさんと静まりかえり、

人の気配がしない。


内装ないそうも心持ちか変わって見えた。


僕は思わずつぶやいていた。


「人がいない」


それに答えるように、少女は窓際まどぎわを指差した。


その指し示した先には見知らぬ風景が流れていた。


荒廃こうはいちたてた都市が、

夕日で赤くまり、波の様に打ち寄せていた。


いつの間にか列車は、空中にえられた透明とうめい

チューブの中を流れる様に進んでいた。


透明ガラスりの窓からは、

眼下がんか景色けしきけて見えた。


宙をただよっていた。


そこから見下ろす都市は殺伐さつばつとし、

荒廃こうはいして僕の知る近代都市の面影おもかげはなかった。


あらたまって転移てんいした事を実感する。


「これが未来?

 いや並行へいこうかいだったか。


 信実なのか?」


『真実の未来。 真実の歴史』


少女がその考えを肯定こうていするようささやいた。


「手品じゃないんだ」


思わずそうつぶやいていた。


『現実世界』


少女は短くそう答えた。


しばらくほうけて外のけしき色をながめていると、

ふとある疑問ぎもんが浮かんだ。


「そう言えば僕が乗ってたのって、

 地下鉄じゃなかったけ?

 それに昼間だったはず


に焼けた眼下がんか見下みおろしそうたずねた。


『こちらの世界も今は昼間』



「この世界の空は青くないんだ?」



『空が青いと決めたのは君達』


まるでおとぎ話を聞いてるようだ。


『私にとっては君達の世界のほうがおとぎ話』


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