閉鎖都市

世界の真実

１０

「ところでノワール。

　何が起こってるのか知ってるの？」

ノワールはそれにはすぐには答えず、

スピットのほうを見た。

スピットは無言（むごん）で頷（うなづ）く。

ノワールはそれを確認してから、

無言でバイザーを外（はず）した。

少女の羽毛（うもう）の様（よう）な髪が、

辺（あた）りに飽和（ほうわ）するようにふわりと漂（ただよ）う。

卵型（たまごがた）の細い輪郭（りんかく）とは対照的（たいしょうてき）な

ふっくらとした頬（ほほ）が、

幼児（ようじ）のあどけなさを残していた。

『その前にソウヤ。

　私とパートナー契約（けいやく）しよう』

「パートナー契約？」

それが何を意味するのか分からない以上、

簡単（かんたん）には応（こた）えられない。

『これはエンゲージではない。

　もっと気楽（きらく）に考える 』

彼女の無垢（むく）にこちらを伺（うかが）う瞳を見て決断（けつだん）した。

「うん分かった、契約する」

その答えを受け少女はペットロボを見る。

『ナビお願（ねが）い』

それを受けてスピットの目から紅の光線が、

地平線（ちへいせん）の様（よう）に飛び出した。

【生体プロジェクション・マッピング開始】

バイザーから擬似（ぎじ）的（てき）な声が漏（も）れ出すと共（とも）に、

赤い地平線が上空から俺の体を撫（な）でるように

下に流れ出した。

【第一（ファースト）パートナー契約完了】

何が起こったのか分からず

彼女を見つめる僕に、彼女は囁（ささや）いた。

『何が知りたいの？』

少女は真摯（しんし）に僕を見つめた。

「まず、さっき話してた転移（てんい）って何？」

彼女はしばし思案（しあん）した後、静かに口を開いた。

『別世界（べっせかい）に飛ばされる事（こと）よ』

少女は子供に童話（どうわ）を聞かせる様（よう）に話し始める。

『あなたの暮らす世界は、

　厳密（げんみつ）には擬似的（ぎじてき）に造（つく）られた並行（へいこう）世界なの。

　本来の歴史では随分（ずいぶん）まえに滅（ほろ）んだ世界よ』

　擬似（ぎじ）世界（せかい）？　 滅（ほろ）んだ？

「閉（へい）鎖（さ）都（と）市（し）が？」

『そう厳密（げんみつ）に言うと、

　完全な並行（へいこう）世界（ せ かい）じゃないけど』