閉鎖都市

─６─

僕が次の言葉を探している間に、

振動音は徐々（じょじょ）にその距離を縮（ちぢ）めていた。

ブーンと言う機械的で規則的（きそくてき）な低周波（ていしゅうは）に似（に）た振動（しんどう）。

胎内（たいない）から響いてくる様（よう）なくぐもった音。

ペットロボの警戒する様な灼眼（しゃくがん）の瞳が、

否応（いやおう）にも未知の最悪をそうきさせ、

不穏（ふおん）な空気をいっそう緊迫（きんぱく）させていく。

迫（せま）る低周音（ていしゅうおん）。

その波がトイレの小窓を震わせ始めた。

同時に小窓から赤色の灯火（とうか）が溢（あふ）れ出し、

ペルボの華奢（きゃしゃ）なボディーを鮮血（せんけつ）に染（そ）め上げていた。

緊迫（きんぱく）した時間。

業火（ごうか）に浮かぶシルエット。

ペルボの赤眼（せきがん）の瞳が煉獄（れんごく）の業火（ごうか）に焦（こ）がされてなを

意思（いし）を失わない様（よう）な強い光を放（はな）っていた。

その異様（いよう）を前に固まる時間。

それは唐突（とうとつ）に破（やぶ）られた。

壁を透過（とうか）する様に突き抜けた光線が、

赤い刃物が個室の上半分を分断（ぶんだん）したのだ。

それはまるで突然（とつぜん）クリスマスのケーキに入った、

真っ赤な刃物のようだった。

なんの前触（まえぶ）れもなく唐突（とうとつ）に切り裂（さ）かれた天上が

真っ赤な断面（だんめん）を晒（さら）していた。

それが何なのか理解（りかい）する間（ま）も無く、

赤外線のような真っ赤な光のフィルターは、

頭頂部（とうちょうぶ）から足元に流れ降りた。

スキャンされている様（よう）な感覚を覚える。

それが終わると唐突（とうとつ）に壁が渦（うず）を巻（ま）く様（よう）に溶け出し、

排水溝（はいすいこう）に呑（の）まれる様に消えていった。

残された真円の穴が痛々しい傷痕（きずあと）を刻（きざ）んでいる。

その先に漂（ただよ）う陰影（いんえい）。

満月に型（かた）どられた怪（あや）しく揺らめく輪光（りんこう）。

異様（いよう）に膨（ふく）らんだ方眼球（ほうがんきゅう）とでも

形容（けいよう）したらいいのだろうか。

それはコープ(自動追跡監視（じどうついせきかんし）システム)だった。