第46話 合流


「おーいっ!」


 モンテレート中央公園のど真ん中にある広場で、瀬良が大きなパネルを掲げて見せた。

 パネルにはアイビストライフと書かれている。

 瀬良の視線の先にあるのは、空中に浮かんだ人型の機械だ。

 音もなく空に浮かび、高速で飛行し、公園上で何度も旋回を繰り返している。


「あの人が瀬良さん……かな?」


 シェリオはモニターを確認すると、キティをゆっくりと降下させた。

 機体はフィールド推進なので、降下しても周辺に高温のジェットスラストなどを吹きつけたりはしない。

 草一つ揺らさず、両足のバネでその場に着陸した。


「瀬良さんですか!」


 シェリオが前面のハッチを展開し、身を乗り出して叫ぶ。

 周囲で状況をジッと見守っていた群衆から、どよめきが上がった。

 不思議な機械に乗ってきたのが十代の少女であることが衝撃だったらしい。


「な、なあ……何が起こってるんだ?」


「しっかりしろ、クリシー!

 混乱は伝染するぞ。

 ――アイビストライフの方ですか? 真人から聞いてます!

 私は瀬良といいます」


 瀬良が進み出て右手をシェリオに差し出した。シェリオも機体から右手を抜くと、その手を握り返す。


「そうです、私は《アイビストライフ》のメンバーで、シェリオと言います。

 真人のことをご存じでしたら、事情はご存じですね?

 ここは危険です、このセカイから避難してください!」


「既に避難は始めています。

 自警団を始め、動ける連中には総動員をかけてます。

 ただ、黒い化け物が……」


「――そちらは先ほど、真人が撃退いたしました。

 障害はもうありません。

 我々も避難をご支援いたします」


 シェリオが口を開くのに一瞬間があったが、そのことに気づく者はいなかった。

 代わりに周辺から歓声が響いた。


「有り難い、流石は真人だ!

 ああ、それと真人はどうなりましたか?

 彼は無事でしょうか……」


「大丈夫、無事です。

 現在はこのセカイの崩壊を遅らせるために中心部へ行っています」


「よおし……皆、聞いてくれ!

 さっきの黒い化け物は……」


 瀬良が喜々として事情を説明し始める。

 その声を聞きながらシェリオがそっとハッチを綴じた。誰にも見られないように袖で目を拭う。

 ほんの少しそうしていた後、深呼吸して息を整え、キティーのサブディスプレイで状況を確認する。

 既に幾つかの出入り口からアイビストライフの車両がこちらに向かっているようだ。

 瀬良たちが見つけたゲートにもメンバーが行っている。


「瀬良さん、もうすぐ私の仲間が大型の車両に乗ってこちらに来ます。

 車両は横のグラウンドに乗り入れますので、子供やお年寄り、身体の不自由な方から避難願います」


「了解です!

 クリシー、部下を借りるぞ、手伝ってくれ。

 あと市長!

 そんなとこで頭抱えてないで、皆に号令を……」


 瀬良が回りの人間を動かし始めた。

 それと同時に、横のグランドにアイビストライフの大型車両が次々と入ってくる。


「瀬良、役場とウチのホテルで協力して避難民名簿を作る。

 避難する人間は必ずこっち通してくれ」


 元ホテルの支配人だったクリシーが部下だった者たちを連れて車両の方へ駆けだしていった。

 頭を抱えていた市長が起き上がる。


「瀬良、管轄の軍や国の施設とはどうやっても連絡が取れないが、どうする?

 なんなら施設まで車を飛ばしても……」


「デュリア市長、壁の向こうには何もないよ。

 空も森も、何もかもが全てツクリモノ、舞台のセットでしかなかったんだ!

 我々には、いまここにある物だけが――いまここにいる人がだけが、全てだ。

 それよりアイビストライフの人たちに協力を頼むよ。

 君は普段から頼りになったが、いざと言う時はもっと頼りになっただろう?」


「――ああ、もう何がなんだか分からん。

 分からんが……分かった! 任せておけ!」


 避難民たちは活気だってきていた。

 グランドには車両の回りに人だかりができているようだ。

 シェリオはモニター越しにそれを見ると、満足そうに頷き、キティを一気に上昇させた。

 黒い霧は依然としてそこにある。


「真人……」


 急ごしらえの機体には、複雑な機能は付いていない。

 一人で中心部へ向かった筈の真人がどうなっているのか、ここからは分からない。

 キティーのモニターに写る中心部は、未だ黒い霧で覆われていた。

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