第10話 てまりうた -あやはのせかい-



 ひとつとせ〜、


てまりうたがきこえる。


子供たちが集まって、まりつきをしているみたいだ。


楽しげな笑い声や歌がが、かすかに風にのり遠くからきこえてくる。



いつからか、もうわからない。


世界を、そこにすむひとたちを愛するようになったのは、いつからだろう。


稲荷の神に帰依して庇護に入り、神使、神の司としてこの地を見守り、世界を治め、ひとたちの生活を見守り、看取り、共に幾年いくとせを見てきたからだろうか。


このわたしの世界のひとたちは田畑の収穫を終え、ひとたびの休息の季節へと向かってゆく。



子供たちにはそんなことは関係ない話で、

父母を手伝い、遊び、日々が過ぎてゆく。


わたしにとっても懐かしく、そして胸の暖かくなる遠き日の思い出だ。



今の、現世このよの人の暮らしはどうだろう。

日々を楽にして、時間を得るために人は進歩して、楽しいはずの生活を手に入れた。そのはずだ。


でも、単純だった日々は複雑になり、ひとたちは困惑して、

手に入れたはずの時間に、逆に使われているように日々に追われている。


なんだろう。

現世は修行の時でもあるけど、無用な苦しみは必要無いはず。


荒ぶる御霊みたまのように相手を悲しみに落としお互いを傷つけあう。


昔も今もそう変わりはしないけれども、でもそんな出来事を多く感じるようになった。


世界は、崩れつつあるのかもしれない。




歌声がきこえる。


 からすといっしょにかえろうか〜。


思ったよりも長く、考えごとにふけってしまった。


日の暮れる、わたしの世界から現世の地へ戻るための鳥居をくぐる。



「さて、みんなはどうしているかな?」


そんなひとりごとを呟いて、

わたしの仲間たちのことを想い、わたしわ口元をゆるめる。

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