b.心象風景

 晩秋の教室であなたは授業を受けている。忙しくノートをとる必要もない退屈な授業である。教師の声がどこか遠いところから鳴るラジオの音のように聴こえる。ストーヴが静かに動いている。室内はひどく暖かい。あなたはぼんやりと、どこを見るでもなく、しかし一点を見つめて、何か考えている。とりとめのない空想が次々と弾けていくなか、唐突にあなたは十代がもう終わりかけていることに気がつく。自分はまだ何も成していないし、何かを成す気配もないし、そのために努力しているわけでもない。書こうと思った小説はすべて中途半端に霧散した。焦燥感を持つべきだとは考えたけれども、暖かい教室のなかを流れている暖気に溶け込むこの退屈な午後の時間が、ふと愛おしく感じられて、いつまでもこうしていられたらいいなと思う。みんな、ずっとこのままでいられたら。

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