c.書肆大寒

 寒い冬の夜だった。底冷えのする本屋はひっそりと静まり返っていた。客はあなたの他にだれもいなかった。ただ奥の会計机で店主が紙巻煙草をふかしていた。煙草の煙がゆっくりと本屋のなかを漂っていた。白い電灯がひとつ、寒さに震えるようにして天井から下がって、この本屋をぼんやりと照らしていた。


「自分はいつまで、――だれに強制されたわけでもないのに、そうしなければと自身を追い立てるように、小説を書こうと思いながら生きてゆくのだろうか」


 と、あなたは思った。


 外では深々と雪が降り積もっていた。



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