遍在する『あなた』

A.読書遍歴

 あなたは本が好きな子供だった。子供の頃は「本が好き」と迷いなく言えた。


 しかし今はそうではない。趣味はと問われて読書と答えることにためらいを覚えることがある。読書が重荷に感じられることがある。


 あなたの周りにはいつしか「読むべき本」が増えてきた。10代のうちに読んでおくべき名作とか、歴史に残る古典とか、そんな類のもの。書店や図書館のなかに林立する書棚の間を歩いているとき、そんなものから重圧を受けることがある。本たちは分類に従って整然と並べられている。それが何となく息苦しい。


 あなたがいま読んでいる本は、本当にあなたの「読みたい本」だろうか? 本当におもしろいと思える本だろうか? もしそうでないのなら、なぜあなたはその本を読んでいるのだろう。

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