第23話 姪っこは天才

「何事だ?!」


慌てて火が出た場所に向かうと、ぽっかりと空いた穴からは立ち尽くす姉を筆頭に、子供たちも魔王もぽかんとした顔をしている。

にこにこと嬉しそうなのは姉の腕の中にいるアーティエルだけだ。


外から回ったのでわからなかったが、火が出たのは食堂のようで長いテーブルに子供たちが整然と座り今まさに食事が始まったところだった。

食器は厨房で埃をかぶっていたのを使ったのだろう。きらびやかな皿に料理が並ぶ。調理器具も揃っていたようで、なんとか様にはなっている。だが、食堂の一部の壁から床がすっかり炭になっている。雨の日にはもうこの場所は使えない。寒い夜も同様だ。


「何があったんだ、ねぇちゃん?」

「ええ? おねぇちゃんも何が何だか…もしかして、アーちゃん?」

「うぇ?」

「確かにアーティエルだ。急に魔法の気配がしてとっさに指向性を変えることしかできなかった。誰も怪我はないだろうか」


魔王が混乱したように周りに視線を移す。視線の先には大きな怪我をしているものはいないようだった。


「アーティエル? もう魔法が使えるのか?」

「正確には魔法ではない。魔法陣もなかった。それに我もタミリナも何も教えていない」

「アーちゃん、もう一回できる?」

「あう?」

「同じようにできるか?」

「ぶ、『う』」

「まずい!」


途端、炎が出現し先ほどと同じように飛んできた。だが、今度はディーツとギャッソが立っている。

ギャッソが瞬時に結界を張ったが、しゃらんと音を立てて崩れる。彼の力が弱いわけではない。炎の威力が凄まじいのだ。ディーツは剣で炎を切り裂く。二つに割れた炎はそのまま二人を通り過ぎて左右に散っていった。


「すまない、やはり指向性を変えるだけで精いっぱいだ。怪我はないか?」

「ああ? ギャッソの結界を一瞬にして消し飛ばす炎だぞ?! あんたにはこの火傷が見えねぇのか」


剣で切ったときに頬を掠めた炎でチリチリと痛む。

ヴィヴィルマに見せると、ほぅっと感嘆の息を吐いた。

ギャッソがすぐに治癒術を施してくれたので痛みは瞬時に消え去ったが、ヴィヴィルマの表情には謝罪の色はない。


「アーちゃん、すごいねぇ。おかあさん、びっくりしちゃったよぅ!」

「ああ、すごいな。父も嬉しいぞ」

「おいこら、そこの親バカども。子供の躾くらいちゃんとしろ。人に怪我させたら謝罪が基本だ。それに、せっかく修繕してもらっても次々と穴開けられたらたまったもんじゃねぇぞ?!」

「えぇー、ディーくんもほめてくれたっていいじゃない。すごいでしょ?」

「体も金もいくつあっても追っつかないって言ってんだ!」


生活能力のない二人は親としての常識も金銭感覚もないようだ。

ディーツははしゃぐ二人にこんこんと説教する羽目になった。




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