第18話 先立つものは…
家族が欲しかった。
神殿に姉を取られて、両親が流行り病で亡くなって一人ぼっちになったときからの願いだ。両親の親友だという男に連れられて国内を巡りながら、ずっと姉と一緒にいたいと願った。引き取ってくれた男が破天荒だったから、尚更だ。
姉がいた時は、両親が生きていた時は、もっと暖かくて優しくて気持ちがふわふわしていた、そんなことばかり考えていた。
失くした時間を取り戻したかった。
突然奪われたのだから、取り戻す権利だって自分にはあるはずだ。
ディーツはその思いだけでがむしゃらに突き進んできた。
それが姉だけでなく、姉の子供まで加わるのだ。二人が三人になって四人になる。そうして自分の家族が増えていくことが嬉しい。
―――そう思っていた時が、確かにありました。
なんて自分は能天気だったのだろう。
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ディーツは目の前の光景を見つめ絶句する。
太陽の下、半壊にされた城がその姿を無惨にさらしている。下部分がえぐり取られているが、きちんと建っている点では素晴らしいと思わず褒めたくなる。
だが、問題は壊れかけた城ではなく、城の周りをうろちょろしている子供たちと蛙の数だ。
ざっと見ただけでも200人以上が楽しげな笑い声をあげて駆けずり回っている。一瞬、蛙に襲われているのかと思う異常な光景だが、子供たちの楽しげな表情のおかげで、和やかな様子だ。
聞いたところによれば、子供の数は112人。つまり蛙の数も100匹近い計算になる。どちらに眩暈を覚えるのかは定かではない。
ちなみに姉は神殿にいた頃に蛙と友達になったくらいに蛙好きだ。アーノルドパワーと名付けて大切に育てていたらしい。
初めて聞く姉の姿に、ディーツは思わず黙りこんでしまった。
どおりで魔王がウキウキと蛙を洗脳して連れ帰ったわけだと納得した。
ついでに言えば、アムリもリートンも一緒に来ることを拒否した。理由は蛙がいるからだ。無理に連れていくなら爆破するからと、リートンは据わった目を向けながら答えたほどだ。
「近隣から攫われた子供たちだ。取り返そうとした親はその場で殺されているからほとんどが孤児なんだそうだ。帰る場所がないらしい。一部、親も囚われていた子は家族一緒になって家に帰ると言っていたが、数人程度だった。中にはまだ赤子もいる。奥の部屋で寝かしているが」
「子沢山でスネ」
ヴィヴィルマが横に立って説明してくれる。のんびりとしたミューの言葉もほとんどディーツの耳には入ってこない。
「これをねぇちゃんが面倒みるだって…?」
「皆、夜は怖がってタミリナの近くでないと眠らない。昼でこそ少し離れていられるが、長時間になると集団パニックになる」
長い間エサとしてとらえられており、心が不安定になっていたところに、突然聖女と魔王が現れ、あっという間に悪者を撃退したのだ。二人は子供たちに救世主のように崇められ、精神の安寧には欠かせない存在になっている。
今も、ディーツが起きて早々に魔王に姉と一緒に連れてこられてすぐに姉は子供たちの世話をしに城の奥へと姿を消している。二日酔いを姉の聖水で治したクロームも姉を追いかけて城の中だ。
半壊した城がいつ崩れるのか、不安で仕方がない。クロームが法術で守ってくれると信じてはいるが。
「それで、我はその、魔術は得意なのだが、どうも壊す専門で。作るとなるとどうすればよいのかわからない。タミリナも生活は全部神兵がやっていたと言っていて…今は街まで転移して食料を仕入れているのだが、どうも我が買ってくるものは食べにくいらしくて…」
「つまり、なんだ?」
「生活のことを教えて欲しい」
ディーツは思わず天を仰いだ。
空はこんなに青く澄み切っているのに、どうしてこんなに目の前が真っ暗な気持ちになるのだろう。
生活ってなんだろう。
それを魔王に教える?
勇者として生きてきたディーツでも簡単な料理くらいならできる。一人暮らしも長いので掃除、洗濯などおおよそ家事と呼ばれることは一通りこなせる。
衣食住整えることは大切だ。
それはわかる。
わかるつもりだが、その前に大前提として、確認しなければならない。
「魔王さま、お金ってどれくらい持ってるんだ?」
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