第19話 改めて、よろしくな!
魔王の持ち金はまさかのディーツの所持金よりもショボかった。聞けば、小遣い制のため、あまり金を貰えないらしい。
むしろミューのほうが金持ちだ。
「どうにか融通できないのか?」
『勇者が金をせびってくるんだが、どうすればいい? お前、いくら持ってる』
『昨日散々タカられましたからロクに残ってませんよ。王さまこそ、なんとかならないんですか?』
『タゲッツールが渡すと思うか?』
『女にうつつを抜かして王立軍の費用を渡したなんて知れたら貴方くびり殺されるんじゃないですか』
『分かってるなら聞くなよ…』
「お前ら、魔族語で話してんじゃねぇぞ」
「金の都合は難しいようだ」
「諦めテクだサい」
「すっげぇ話してただろうが! 結論、短けぇな!?」
ガシガシと頭をかいて、はぁっと一つ息を吐く。
「あんまりやりたくないがしゃあねぇか…とにかくどれくらいの金がいるのかわからないから、境界の街まで戻ってくれ」
「わかった」
「ア、つイデに私ヲ戻しテモラっていイデすか? 私も向こウノ統括なノデ」
「そうだな。ここまでディーツくんたちを連れてきてくれてありがとう」
「世話になったな!」
「お役ニ立てテ光栄デす」
羊が優雅にお辞儀するが、無表情は変わらない。嘘くさいセリフも相変わらずだ。けれども、別れるとなると微妙に物悲しい気持ちにもなる。魔界を旅した半年間の羊のとぼけた顔が走馬灯のようによぎった。
魔王とともにミューは瞬時に姿を消した。
ディーツはすることもないので、その場にぼんやりと立っていた。
子供たちを眺める。112人の子供たち。姪も入れれば113人だ。生活を整えていくために必要なことは山のようにある。
まずは何をしようか、考えていると魔王が戻ってきた。
ミューを連れて、だ。
「ん? なんか用事か?」
「無理でス、耐えラレマせん…」
「あれはお前には確かに荷が重い。別のを統括に据えてやるからしばらく身を隠していろ」
「向こうで何があったんだ?」
「サイクル王国の国王陛下からの手配書が国中に回ったと伝達鳥が騒いでいた。これだ」
魔王は一枚の紙を差し出した。
そこにはミューの名前と討伐した者には莫大な懸賞金を与えることが書かれていた。勇者を倒した最恐の悪魔と銘打たれ、羊が意味ありげに笑っている絵は名前が書かれていなければ誰だろうと首をかしげるレベルだ。
また、行方不明となっている『サイクル・リッパー』を見つけた者にも同額の懸賞金が支払われる。
このような紙がサイクル王国どころか周辺国にまで配布されているらしい。昨今は奴隷の魔族や亜人から魔法の仕組みを聞き出し、術式として展開できる魔術が流行っている。魔力の源を石に変えた魔石を使ってただの人間でも魔法が使えるようになったのだ。その魔術で一瞬にして情報の流布が可能となるため、一日あれば確かに配るのは容易いだろう。
「刀は渡せないし、お前の首でも差し出すか。多額の懸賞金で生活も潤う」
「オ戯れハオやメクダさいイイぃぃ」
ディーツがいい笑顔を向けると羊は無表情のまま震えた。
「しっかし、この賞金額見覚えあるな…まさか、俺が銀行に預けてた金か?!」
「ああ、勇者が死ねば王国は金を回収する。勇者は家族とは切り離されるだろ。妻帯も許されない上に、先代たちは戦場で死ぬことが多かったからな。だからこそ気前よく王国も金を渡していたはずだ。銀行に預けろとか、うまい誘導があったようだが…」
「確かに。銀行においておけば安心だとか言われて手続きさせられたな! くっそー、俺の金だぞ。でも、なんでそんなに詳しいんだ?」
「昔馴染みの友人が勇者だったんだ。いろいろと愚痴られた。ディーツくんのように、戦場で死んだように見せかけて魔界へ移り住んだ。それ以来会ってはいない」
「そうか、千年もあれば魔王にもいろいろあるよな。年寄りはゆっくりしてくれと言いたいが、お前の転移魔法は便利だからなぁ。しばらくは重宝するな」
「年寄り…」
「さあ、境界の街まで連れてってくれ!」
「行っテラッしゃイマせ」
羊に見送られて、瞬時に景色が変わった。
着いた場所は境界の街の入り口だ。酸で溶かされた門が見える。
「ヨォルかグレンテスに会いたいが、どこにいるかわかるか?」
「年寄り…」
「魔王さま?」
「魔王はやめてくれ。にぃさんと呼んでくれてもいいんだが」
「絶対にいやだ!」
「ではヴィヴィでいい。我には人探しの能力はない。場所を指定してくれれば跳ぶことは容易いが」
「じゃあ、食堂に跳んでくれ」
こうして何回かの転移の末、ディーツは目的地にようやくたどり着くことができたのだった。
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