第17話 夢のカタチ
魔王の転移術で、境界の街まで連れて行ってもらって、食堂へとかけつけたディーツたちが見たのは、眠りこけているクロームを必死で起こそうとしているグレンテスの姿だった。
なぜか女とグモールとグレンテスの妹が光輝く鎖にまかれて一塊のまま、すやすやと寝ている。
どういう状況なのか聞くのも怖い。
朝日を迎える頃には、聖女を語る蛇女は首を斬り落としてさっさと始末した。グモールは魔王が召し使いに欲しいというので洗脳してもらった。
爽やかな笑顔で蛙を引き連れて帰っていく彼の姿は眩しかった。
タミリナが目覚めれば、街の宿屋に連れて来てくれるとのことで、ひとまず一行は眠ることにした。
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「んふふ、こんな顔して寝てるのかぁ…」
「タミリナさま、みだりに男の部屋に入ってはなりませんよ」
「だってぇ、ディーくんの寝顔なんて何十年ぶりかに見たからね。可愛いぃねぇ」
さらりと前髪を撫でられる感触が気持ちいい。だが、もう18になる男に可愛いは禁句だと寝ぼけた頭で文句を言う。
撫でられていた手がぺしぺしと叩く動作に変わる。
もしかしたら、文句が口に出ていたのか?
「ふふ、眉間にシワが寄ってるよぉ、聞こえてるのかな? おはよ、もう昼過ぎだよぅ」
柔らかい声に促されて目を開けると、もみじのように小さな手が視界を覆っていた。
「んわ、なんだ?!」
手を掴むと、ふにゃんと柔らかい。ひどく危うい感触に慌てて手を放すと紫色のまん丸な瞳がディーツを捕らえていた。
「え、誰だ?」
「んもぅ、ディーくん、新しい家族に態度悪いよぅ。おじさんは寝起きで機嫌悪いねぇ、アーちゃん」
姉が子供を抱き上げてベッドの端へと下がってくれたので子供の全貌が明らかになった。黒髪の紫の瞳をした2歳くらいの女児だ。物珍しげにディーツを眺めている。
「え、おじさん? ねぇちゃん、この子…」
「可愛いでしょ? アーティエルっていうのぉ。おねぇちゃんとディーくんにそっくりでしょぅ、頑張って産んだんだから!」
褒めてとばかりに胸を張った姉に絶句する。確か魔界を通ったので姉が出産してから一月も経っていないはずだ。
妄想もここまでくると犯罪になるのか。どこから拾ってきたのか尋ねたほうがよいのか、帰してきなさいと諭したほうがいいのかディーツは迷った。
「ねぇちゃん、子供ってのはそんなすぐに大きくならないって知ってるか?」
「ん、もぅ。ディーくんはすぐそうやっておねぇちゃんをバカにするぉ。アーちゃん抱っこさせてあげないからねぇ」
「いやいや、ねぇちゃん…ちょっと冷静になって。いくら顔が似てるからって自分の子とは限らない―――」
「あのディーツくん、魔族の子供は周囲の環境が劣悪だから人間でいうところの赤子の状態は産まれてすぐに変わるんだ。動けるくらいに親から魔力をもらってすぐに大きくなるんだよ」
部屋の隅に佇んでいた魔王が見かねて説明をしてくれて、ようやくディーツにも目の前の子供が姪だとぼんやりと理解できた。
「はぁ?! じゃあ正真正銘、俺の姪っ子か…」
改めて見ると、瞳は魔王の色だが、顔のつくりは姉だ。姉ほど美人には早々お目にかかれないので、納得するしかない。
「そうか、俺にも家族が増えたのか…ねぇちゃん、ありがとう…」
ポツリと呟くと、姉が優しい顔で笑っていた。そっと小さな体をさしだされ、おずおずと手を伸ばす。
「名前、呼んであげてよぅ」
「アーティエル…?」
ディーツの腕の中で小さいけれどひどく温かい存在がまばたきを繰り返した。ぺちりと小さな手が頬に触れる。
「どこもかしこも小さいんだなぁ」
「子供ならそれくらいの大きさだよぅ」
「そっか。はじめまして、アーティエル。俺はお前のおじさんだよ、家族なんだ、よろしくな」
紫の瞳を細めて笑いかけてくるアーティエルを抱きしめながら、涙がこぼれないように必死で堪えた。
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