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ざざっ、ざざっ、ざざっ。
はっぴを着た人々の行列がぞろぞろと通り過ぎていく。アンドロイドは車のエンジンルームを覗いていたが、ぴたりとその手を止め、あろうことか行列に付いていってしまった。
「おい、どこに行くんだ」
マサトはすぐに追いかけたが、行列にまぎれたかと思うやいなや、その姿を見失ってしまった。
ところどころに足元を照らす明かりがあるだけの、暗いくねくねとした道を歩いていく。行列はどこまでも続いているが、その先を見ると、橙色にぼうっと光る大きな鳥居が現れた。両側に据え付けられたいくつもの赤い提灯には、大木神社やオオキ神社と黒い筆文字で書かれている。
いつからいるのか、マサトのまわりを女か男か区別のつかないおかっぱ頭の子供たちが取り囲んでいた。そのうちのひとりが手を握り、鳥居の中へと引っ張っていく。
「マーくん、ちゃんと回ってきたの?」
「え?」
「やっぱりまたズルしてる。ちゃんとしないといけないんだから。わたしなんて3回も回ってきたのよ。すごいでしょ」
「どこを回ってくるって?」
「神社のまわりにきまってるじゃない。ねぇ、先生のはなし聞いてなかったの?」
参道は明るく照らされているが、人々でごった返し、道がどうなっているのか、周りに何があるのかよくわからない。いろいろな人の話し声が聞こえてくるが、すぐに群衆のざわめきにまぎれかき消される。
そんな人混みの中から垣間見える露店の数々。赤や黒の金魚、色とりどりの水風船、キラキラ光るおもちゃ、わた菓子の甘いかおり、ソースの焦げるにおい、子供にはどれもがとても魅力的だ。
『子供?』
マサトは自分の目線がひどく低いのに気が付いた。隣にいたはずのおかっぱ頭の子供はいなくなり、繋いだ手を見ると、それは白く大きく、その先にはアンドロイドがいた。とても懐かしい横顔に見えるが、誰だか思い出せない。他人の空似? いや、表情のない顔が誰かに似ているなんて考えはばかげている。
手を引かれながら人波を縫うように進み、露店の脇をするりと抜けると、こじんまりとした社殿の前に出た。アンドロイドにうながされるままお辞儀をして、手を叩く。建物の中を見ると、床に座ったおかっぱ頭の子供たちが、顔は見えないが誰かおとなの話を聞いていた。
「むかーしむかし、ここにはとても大きな木がそびえ立っていました。そのまわりを一周するのに1年もかかり、月に届くくらい高い木でした。白くてきれいな花をたくさん咲かせ、真っ赤な果実がたわわに実りました。木の陰になるところにも不思議と草花が生え、数え切れないほどのお花畑が広がり、鳥や動物たちもたくさんいました。その木が倒れたときに、ちょうど真ん中に建てられたのがこのオオキ神社です。その後、神社を取り囲むように小さな町ができ、そして年輪が広がるように、どんどん大きくなっていきました」
「マサトくんじゃない。こんなところで何してるの?」
後ろからぐいと手を引かれ振り返ると、アンドロイドが立っている。表現できないほどわずかな変化だが、明らかに先ほどまでとは違う表情をしている。
「え? 何をしてるって、そんなの祭りに来たに決まって…」
『いや、違う。おれは何をしていたんだ』
「まさか、あの約束、忘れたんじゃないでしょうね」
『約束? あぁ、あの約束か。あの約束なら…あれ? 何だったっけ……思い出せない。それより…』
「あっ、あんたは…」
『ひょっとして…いやそんなはずはない、あの人は確かに…確かに、何だ? とても大事なことを忘れてしまっているような気がする』
「わたしがどうかしたの? それより、こんなところにひとりで来たらだめじゃない。あなたの来る場所じゃないのよ」
本気で心配した顔をしている、ように見えた。
「あそこから出られるから早く帰りましょ」
ふふふと笑って社殿の奥にある暗い小路に消え、マサトは反射的にその後ろ姿を追っていた。
道は少し広くなり、赤やオレンジの光で照らされた通りの両側には、小さな飲み屋や屋台がぎっしりと立ち並び、人々の話し声や笑い声、食器がぶつかる音、さまざまな喧騒に包まれている。アンドロイドは通りの真ん中をすべるように進んでいく。
『そっちに行っちゃだめだ』
何かたいへんなことが起こってしまう。そんな気がして追いかけるが、いっこうに距離は縮まらない。やがて通りの先に突然あらわれた、空間の裂け目と呼べばよいのか、その漆黒の闇の中へ吸い込まれていくのが見えた。
『危ないっ!』
マサトはやっとのことで追いつき闇から伸びた手をつかもうと腕を伸ばすが、すんでのところでつかみそこね、勢いあまって自分もその中へ吸い込まれていった。
どこまでも落ちていく感覚。
闇の中で小さく見える青い玉。徐々に大きくなるそれはこの惑星を宇宙から見た姿に間違いはなく、どんどん近く、そして巨大になっていき、やがて群青色の海が視界いっぱいに広がる。と思うと次に現れてきたのは、浜辺に打ち寄せる波、そして心地よい潮騒。さわさわと木の葉のかすれる音を聞いたかと思うと突然、景色は蒸発し真っ白になった。
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