第五十九話 関門の説明って難しいよね
俺—出雲かなたが猫の門事件に関わって、から数日がたった。その間、ぬらの声を聞くことはなかった。
ぬらが言っていた数日寝るっていうのは本当だったんだ。あいつが話かけてこないのが違和感でならない。
あの技ってそんなに消費がすごいのかな?
それに、ぬらに言われて何とか言葉を出して誤魔化したけど、誤魔化しきれているのか心配だ。
そしてこの数日間、着実に現世の任務について話し合いが進んで行った。
といっても、どこで何をするかを詳しく話し合っただけだけど。
それが終われば班のみんなで演習場に行く。初瀬さんの固有陰陽術式の構成を考える。
何となく構成はできたらしいけど、やっぱり発動まではできない。俺と桜が異常なだけで、普通は初めての発動が関門になるらしい。
想像力をフルで活用して具体的に形作っていく。その段階は本当に本人次第なので、俺と蒼は組み手をして時間を潰していた。桜はというと……
「いまいい感じだったよ!!そこの部分をもっとぐわーーってやって、シュシュって感じにしたらもっと良くなるよ!」
桜さん、もう少しわかりやすく説明できないのかな…初瀬さんだって困って――
「なるほど!!ならばあそこの部分をシュシュではなく、チュチュといった感じでどうでござるか?」
「いいね!ならもう一回やってみようよ!」
「了解でござる!!」
なかったね。うん、一緒にいる茜さんが困り顔してるよ。俺に対して『助けなさい、殺しますよ。』って、すごい形相でこっち睨んでくるもん。怖すぎません?
「あ、茜さん、こっちで組み手の相手をしてくれませんか?蒼ばかりになれるのもよくない気がするので…。」
こんな感じでいいよね?あの人の場合、蒼のことを少しでも軽んじる発言をすると殺意が飛んでくるから…。
いや、今の発言でもダメだったみたい。すごい睨んでくるよ⁉︎やばい!
そのすごい目つきで近づいてこないでくださいよ!
「わかりました。そういうことでしたら、私でよければ、お相手して差し上げます。」
「あ、ありがとう…ございます。」
俺、絶対殺されると思った。何であんなに怖いのこの人!
俺は茜さんと組み手を始める準備をする。蒼は見学をしている。でも、開始の合図は出してくれるそうだ。
よし、準備完了!茜さんも準備ができたみたい。
「それじゃあ、かなた、あかねえさん、準備はいいね。この組み手はどちらかが一撃を加えたら終了とします。それじゃあ、はじめ!」
俺と茜さんは一気に近づく。はじめに動いたのは俺。拳を前に突き出し、すぐさま次の攻撃へと繋げる。
茜さんは避けるどころか全て捌き、そこに攻撃も織り交ぜてくる。俺も紙一重で避ける。
この人、どこまで見ているの?
長い攻防の末、勝ったのは茜さん。
『俺の拳が当たる』そう確信した時、茜さんはそれを読んでいたように合気道を使って俺を地面へと叩きつけた。
「それまで!勝者、あかねえさん!」
いってて。今の確実に入ったと思ったんだけどなぁ。やっぱり、最後のスキはわざと作ったのかな?
「大丈夫ですか?」
そう言って茜さんは手を差し伸べてくれる。その手をとり、立ち上がる。
「貴方の攻撃は当たると確信した時や相手にスキができた時、動きが単純になります。気を付けた方がいいかと。」
「だから最後、スキを見せたんですね。」
「貴方なら気づくと思いまして。」
なるほど、この攻防の間にそこまで分析されるなんて。
確かにいけるとは思ったけど…。慢心せずに備えをしておけということだな。
蒼にも言われたようなきがするなぁ。直さないと。
「話は変わりますが、お二人から私を離してくれてありがとうございました。正直なところ、私には解読不可能でしたので。」
………。え、俺、今、茜さんから感謝された?
あの殺意しか飛ばして来たことがない、あの茜さんが?
いや、聞き間違いだ。俺に感謝するわけがない。
「何を呆けているのです?」
「いや、ちょっと聞き間違いをしまして。茜さんが俺に感謝をするなんてあり得ないですよね。だって、殺意以外の感情を感じたことがないんですから。」
そうだよ、あり得るわけがない。茜さんって俺に対して鬼だから。
「あなたが私をどう評価しているかはわかりました。」
あ、まずい。直接いうようなことじゃなかった!やばい、殺される⁉︎
「でもですね、私自体、普通の人間なのですよ。少し蒼様のことになると上がりやすいですけれど。」
すんなりと、怒ることなく言ってきた。
「私はですね、しっかりと感情はありますし、感謝もします。ですので、素直に受け取っていただけると嬉しいです。」
「そ、そうですね。感謝はしっかりと受け取ります。でも、もっと頼ってくださいね。多分、俺だけじゃなくて、桜も初瀬さんも頼って欲しいんだと思います。」
これは心からそう思う。茜さんって、なんだか心に壁を作ってる気がするんだよね。
「……、わかりました。困った時はよろしくお願いします。」
「は、はい!」
なんだかいつもの茜さんとは違うから調子狂うけど、少し仲良く慣れた気がするな。
「それはそれとして、あなた、さっきの組み手で指摘したい箇所がいくつかあるのですが?」
いや、気のせいだった。いつも通りの茜さんだった。
「まずは、はじめの—」
そこから帰る時間が訪れるまで、茜さんのスパルタレッスンは続いた。
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