第五十八話 白銀ポイズン
かなたたちを送り、理事長室へ向かう。俺—鬼灯紅蓮は少し考える。かなたはトラブルに巻き込まれる体質なのだろうか?
この半年で鬼界に何度も連れ込まれている。それに、生死を分かる戦いも経験している。
鬼人との戦いで生き残ること自体が奇跡なんだがなぁ。それどころか、あいつは一人で"戦って"生き残った。それは人としての領域を超えている。
陰陽師になって半年。この成長の速さは異常だ。
かなただけじゃない、桜も普通とは違う成長速度。かなたと並べると普通に見えるが、固有陰陽術式を半年以内に完成させるなんて十二家の方々と同等な速さ。
このまま成長を続ければ、あと一年もすれば俺では太刀打ちできなくなる。
どうしたものか。
そんなことを考えていると理事長室前についた。
よし、切り替えだ。これから対策を考えないとな。かなたや桜がこれ以上、異常事態に巻き込まれないようにしないとな。
俺は扉を叩いた。
「失礼します。」
「どうぞ。」
この声、白銀さん?あ、そういうことね。
「本当に入っていいんですか?」
この前のこともある。白銀さんは本当にいいのだろうか?
「はい。理事長は今、手が離せない状況ですが後少しで終了します。」
今回はちゃんと白銀さんの許可も頂いたことだ、入らせていただこう。
「では失礼します。」
そこには椅子に腰掛け、指で印を結びながら集中した理事長と、そこに付き添う白銀さんが立っていた。
「———っ、ふぅー。って紅蓮くん、来てたんだね。ごめんね、情報が欲しくて色々やっていたところだよ。大体のことはわかったから対策を考えていこうか。」
「今回はどれほどの数の式神を?」
「そうだね、20枚ぐらいかな。そんなことよりこれを見てくれないかな?」
「拝見します。」
式神からの情報を書いた報告書のようなものだった。
そこには多くのことが書かれていたが、目を引くことが書かれていた。
猫による鬼門開門について。
やはり、かなたが言っていたように猫が門を開けたのか。そんな前例、今までになかったはずだ。それに、猫自体も普通の野良だったらしい。
だが、術式の痕跡が残っていた。
うん、これで確定したな。かなたは何者かに狙われている。
だが、なぜだ?かなたが『共鳴者』であることは限られた人間しか知らない。
まさか—
「紅蓮くん、その可能性はないよ。これは私の術式で十二家のものに確認済み。他の可能性を考えていい。」
この人のこういうところが恐ろしい。この人は観察眼とかではなく、未来予知に近い"予想"。
この人は術式を常に起動させているらしく、明力自体も無限に使用できるらしい。これも理事長の職業が関係しているといっていた。
"流石"としか言いようがない。いつもはおちゃらけているが、陰陽連をここまで発展させ、かつ実力、統率力、人望、なにを見ても一流。
『
「なら、かなたを狙う理由は『共鳴者』関係ではないということですか?」
「そうだね。ある程度犯人の予想はついてはいるけど、証拠も確証もない。」
仕事が早過ぎる。これ対策いるか?
「それでは対策というのは証拠集めるということですか?」
「いや、紅蓮くんにはいつも以上にかなたくんや桜さんの周りに注意を払っておいて欲しい。証拠を集める前に行動してくるかもしれないから。現段階でも未遂とはいえ、かなたくんを殺しに来ている。いつ動いてもおかしくない。」
「そうですね。今回はかなたでしたけど、桜が狙われている可能性もありますからね。」
これで俺のやることはわかった。たが、犯人に対してできることはないのだろうか?
この人が予想をつけるということはほぼ確実に犯人なのだろう。だが、理事長がまだ証拠や確証がないということは相手も手練れである可能性がある。
そうなると俺にできることがあるか怪しくなってくるな。
「紅蓮くん、僕の予想が当たってあれば、犯人少し厄介な身分の人でね。こっちも色々手順を踏まないといけない。だから、紅蓮くんはいつでも動けるよう準備だけはしておいて欲しいな。」
厄介な身分?手順を踏まないと動けない相手となると相当な高貴な身分になるな。それに尻尾を出さない周到さ、本当に厄介だな。
「わかりました。かなたたちにも何かあれば知らせる様に言っておきます。」
「ありがとう。それと任務中のかなたくんの位置を把握できるようにしておいてほしい。あってほしくはないけど現世で攻撃してくる場合、情報を遮断してくるから。」
「わかりました。すぐに異常を察知できるようにということですね。」
この人の予想は本当に当たる。だが、現世で攻撃を仕掛けてくるというのはどうなんだ?
現世は人の目がある。人払いの結界を張るにしろ陰陽連に見つかる。
そこまでのリスクを犯してまで行動してくるのだろうか?
『共鳴者』のことが関係しないとなると目的がわからない。
「紅蓮くんは指示通りに動いてくれるだけで嬉しいよ。大丈夫、犯人は確実に罰を与えるから。」
「わかりました。でも、俺の心を的確に読み取るのはやめてください。」
「そうですよ。心を読むなど倫理観が欠如している証です。」
「白銀くんは僕にもう少し優しく接してよ⁉︎」
俺はかなたたちに危害が加わらないように立ち回ろう。かなたの任務中は糸を服に付けて、追跡できるようにだけしておくか。
「それでは理事長、私はこれで失礼します。」
俺は静かに立ち上がる。返事はない。
なぜなら、白銀さんがナチュラルに毒を吐きながら理事長の言葉を流し、それに対して理事長がいい返す。
これはあと十数分はかかるな。
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