第五十七話 黒炎
とはいったものの、どうしようかな?『明妖親和性』があるとはいえ、生身なのは変わらない。
札は学校に置いてきているし、これじゃ門も開かないし、少し硬いだけだから肉体言語?
『桜なら、あの距離なら10分で学校に着くだろ。そこから救援がくるのに5分。つまり俺たちが稼ぐ時間は—』
「15分。うん、わかりやすい。なら、避ける、受け流すかして時間を稼ぐ。」
これで目的がわかった。少しでもこの鬼の情報を集めつつ避ける、受け流す!
『この鬼、少しおかしくないか?』
避け始めてから数分。ぬらが話しかけてくる。
俺も少し思っていた。鬼って素直な攻撃が多い。それなのにこいつは俺の着地点に的確な攻撃をしてきたり、隙を見せると首を確実に狙ってくるし。
この鬼からは知性を感じる。なんだ、この鬼?隙の時は確実に首を狙ってくるから避けられる。
「やっぱり考えて攻撃してきてるよね。」
『鬼ってこんな感じなのか?』
「いや、鬼人以外で知性を感じたことがないよ。この鬼はちょっと異常だよ。」
これはやっぱり異常だ。あと約5分、しっかり耐えて紅蓮先生に報告しよう。
さぁ、耐えよう!
『うおぉぉぉぉぉおおぉぉお。』
咆哮と共に鬼の背中が膨張し始めた。
いや、ちょっと待って。腕が数本増えたんですけど⁉︎
足も増えてなんが度し難い見た目になってますよ!
『あれは流石に捌ききれないぞ。』
「わかってるよ!どうしよう、全力で逃げる?陰陽術も使えないし、今の俺じゃ何もできないよ?」
『いや、一回試したいことがある。形代に触れてみてくれ。』
試したいこと?とりあえず、触れてみるか。
触れた瞬間、なにか冷たいものが体に流れる。これって、妖力?
『その冷たいものを手のひらに集めてみろ。早くしないと鬼がくるぞ。』
鬼との距離はまだ離れている。言われた通りにやってみるか。
イメージ的には固有陰陽術式と一緒なのかな?
体の外に出すイメージで……。
次の瞬間、手のひらに黒い炎が現れる。でも、なんか小さくない?
「こんな小さな炎でどうにかなる?なんなんだよこれ…。」
『昔、俺が良く使っていた術でな。とりあえず、当ててみろ。』
そう言われてもなぁ。こんなに小さな炎でなんとかできるとも思えないし。
でも、ぬらがいうからにはなにかあるんだろうな。なら試してみるか。
ちょうど鬼も接近してきてるし。
直線に動いてきてるし、正面からなら俺でもなんとか避けれるか。
俺は鬼の攻撃を間一髪で避け、黒い炎を鬼に当てた。
黒い炎は鬼に当たるが何も起きない。
「ぬらさん、何も起きないですけど?」
『いや、あと数秒待ってみな。』
待つ?なんで?炎ならとっくに消えたけど。
ん?でもなんか、鬼の動きおかしくない?なんか、膨れ上がってきてるんですけど⁉︎
次の瞬間、鬼の口や皮膚から黒い炎が噴き出る。まるで、噴火のごとく。
え、普通に怖いんですけど。というか、身体の中から炎って殺意高すぎない?
『よかったな。これで仕留め損なっていたら「明妖親和性」がキレて生身だったな。』
「いや、それ笑い事になってない!ってか、なんなの今の⁉︎」
『あぁ、今のは昔、俺が使っていた技でな。まさかぶっつけ本番で成功するとは思っていなかったなぁ。』
え、成功するかどうかわからない技に全妖力つぎ込んで倒しにいったの?
マジで目的ガン無視じゃん。15分耐えるって言っていたのはなんなの?
『まあ、そう怒るなよ。実際、倒し切ったことだし。それにあの技もだいぶ荒削りだから、まだ威力は上がるぞ。』
マジですか…。今の段階でも殺意高くて、内側から焼くとかエグい祓い方したのに。
『それとこの技使ったから、俺は数日は寝る。報告の方は、まぁ……なんとか誤魔化せ。それじゃあな。』
「はあぁ!そんな適当な…っておい!」
……返事なし。本当に寝たんだな。さて、どうしようかな…。
「で、かなた。今、どういう状況だ?」
『また何かやらかしたのか』といいたげな顔でこっちを見ないでください、紅蓮先生…。
俺だって訳わかんないんですから。
だって、迷子猫を見つけて捕まえようと思ったら門が開いて、確実に殺そうと思考する鬼に狙われて、ぬらの黒い炎で祓ってって…自分でも言ってても訳がわからなくなってきた。
「帰ったらちゃんと話します。しっかりと報告したいことがありますから。」
とりあえず、一安心かな。桜は大丈夫だったかな?
俺は先生に連れられ、学校に報告のために向かった。
時間が遅いこともあり、先生が先に家の方に連絡を入れていてくれた。しっかりと帰りも送ってくれるそうなので安心した。
そして俺が向かったのは理事長室。そこでは桜が待っていてくれていた。
「あー、よかったー。かなたが目の前からいなくなった時、本当に怖かったんだからね!」
「ごめんって。俺もあの時は本当に驚いたんだぞ。」
実際、あんなところで門が開くなんてことあるのかなぁ?
報告ついでに聞いてみようかな。
「それで、かなたくん。一体何があったんだい?桜さんから話は聞いたけど猫が扉を開いたって本当かい?」
「はい。猫が鳴いたと同時に門が開きました。そして、それを待っていたかのように、鬼が的確に攻撃をしてきました。」
「どう考えても人為的としか言えないですね。それにしても、かなた、お前はどうやって鬼を祓ったんだ?」
あ、やばい。何も考えてなかった。と、とりあえず、なんか言わないと。
「え、えっと、ぬらが妖力を貸してくれまして、『明妖親和性』で硬くなった拳と明力操作で殴りました。鬼が柔らかくて助かりました。」
これ、いい感じじゃない?
鬼は祓わられると跡形も残らないから、炎に焼かれたなんてわからないし、紅蓮先生はカマキリ事件の時に似たようなことがあったから多分信じてくれる。
「はぁ、カマキリの時も思ったが、徐々に人間としての感性がおかしくなってきているぞ。普通は鬼を"素手"で殴るって発想がおかしいんだぞ。」
言われてみれば、それはそうだ。俺って徐々にやばくなっていっている?
桜や初瀬さんのこと言えなくなってきてるってこと?
なんとか修正しないと…。
「それでだ、かなたくん、君は誰かに狙われていると思った方がいい。こちらも探ってはみるけど、警戒はしておいてね。常に札を携帯しておくことと、桜さんも何があるか、わからないからしっかりと警戒と札の携帯を忘れないようにね。」
「「了解!」」
「公式の場じゃないから、そんなに畏まらないで。僕、そういうの苦手なんだ。」
「理事長、そういったことは大切ですよ。普段、
「白銀くんってナチュラルに毒吐くよね。」
白銀さんって『はて、なんのことですか?』と顔で物語ってるよね。
無意識なのが怖いな。でも、やっぱりこの二人はいいコンビだと思う。
「では、方針も決まったことですし、俺はこの二人を家まで送ります。」
紅蓮先生が話を切り出す。時計をみると20時をすぎていた。
「うん、よろしくね。紅蓮くんは二人を送ったら、またここに来て。一応対策は考えておきたいから。」
「わかりました。二人とも帰るぞ。」
「「はい!」」
理事長が羨ましいそうにこっちをみる。何かあるのかな?
「僕のときの返事もそれでいいのにー。」
「だめです。」
間髪入れずに白銀さんが否定する。やっぱり、仲にいいよねこの二人。
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