第五十六話 迷い"猫"

 俺と桜、初瀬さんは演習場を後にして、そのまま商店街に向かった。

 この前買ったコロッケが美味しいことを話したら、桜がどうしても行きたいと言ったからだ。

 といっても桜はコロッケよりも楓さんに興味があるようだけど…。

 そうこうしているうちに肉屋に着いた。

 「あ!かなたさん、お久しぶりです!今日はお友達もご一緒なんですね!」

 「相変わらず元気だね、楓ちゃん。今日はコロッケ三つね。」

 「はい!アツアツでお持ちしますね!」

 いつも通り、元気な楓ちゃんでよかった。それより…

 「うへ、うへへへ、あの子が楓ちゃん。かなたが言っていた通り、かわいいなぁー。」

 はぁはぁと息を荒くしないでください、桜さん。不審者みたいな風格になってるって。

 「落ち着いてくださいよ、桜殿。まずは普通に接して徐々に仲良くなるでござるよ。怪しい人とは話したくないものでござるからな。」

 違う、初瀬さんそこじゃないそこじゃない。まず、そのうへへへを止めるべきだって!仲良くなる方法をわざわざ言葉にするところが怖いよ!

 「お待たせしました!アツアツコロッケ三つです!あと、こちらチラシです!」

 勢いよく渡されたチラシには猫の写真と電話番号って、これ、迷子猫のチラシ?

 「最近、近所の猫ちゃんがいなくなっちゃって、一応気にかけてもらえると嬉しいです。」

 あー、知っている猫ちゃんがいなくなっちゃったのか。

 「わかったよ。見かけたら知らせるようにするよ。周りの人にも声かけておく。」

 「拙者や桜殿も手伝わせていただきたいでござる!」

 「任せて、私たちなら余裕でみつけちゃうから!」

 「ありがとうございます。ちーちゃん、あ、猫ちゃんの名前なんですけど、あの子、人が苦手だから裏路地とかにいるかもです。」

 なら、帰る時にでも気にかけておこうかな。

 

 「本当に美味しいコロッケでござった!それに楓ちゃん、可愛かったでござる!」

 「そうだね、もっと仲良くならないとね!」

 さっきの会話を聞いた後だと二人の会話が犯罪味があるよね。どうにかして二人が道を間違えないようにしないと。

 「それにしても、ちーちゃんだっけ?心配だね。やっぱり、なんとか見つけてあげたいよね。」

 「拙者も新聞部として校内に張り出して多くの人に呼びかけるでござるよ!」

 帰り道は裏路地が見えるようにしようかな。気づくためにはまずは行動してみないとね。

 「では、拙者はここで!明日の午後には新聞を張り出せるようにしたいでござるからな!」

 「うん、また明日ね、桃。」

 「初瀬さん、徹夜とかしないでよ。」

 「では!」

 そう言ってドロン!と煙を立てて姿を消した。さすが、女忍師。忍者みないなことは大抵できるのかな?

 「それじゃあ帰るか。」

 「そうだね、猫に気をつけつつね。」

 そこからは二人でたわいのない話をして歩く。そして、ちょうど公園の横を通った瞬間に目の前の道路を横断しようとする猫が現れた。

 ってあの猫は—

 「見つけた!ちーちゃんだ!」

 うわ、本当だ。すごいな、普通こんな簡単に見つかる物なの?

 目と目があった瞬間に、猫は裏路地に入って行った。

 やばい、見失う!

 「かなた!荷物は私が見てるから、お願い!」

 さすが桜!俺のやろうとしてることがわかってる!

 こういう時こそ、明力操作!見失う前に捕まえる!

 地面を蹴って一気に近づく。

 よし!捕まえ——

 『ニャーン』

 次の瞬間、鳥居が現れる。

 ってこれ、鬼界への門⁉︎ちょっと待って!聞いてない!なんとか止まらないと!

 だが止まる努力も虚しく、体は光の中へと入って行った。

 入った瞬間、目の前に刃が迫る。勢いがある分、避ける余裕がない。

 どうする?どうする⁉︎とりあえず、腕で防御するしかない!

 でも正直、明力を腕に集中させたところで防ぎきれる気がしない。

 固有陰陽術式を使っている訳でもない。運動神経がよくなるだけで、硬さの面では生身の体とほぼ変わらない。

 怖い。でも、やるしかない。

 刃が腕に触れる。だが思いもよらない音がなる。

 『ガァン!』

 俺の腕は刃を弾き返していた。

 え、なんで?腕に傷すらついてないよ?

 『間一髪だったな、かなた。』

 その声は、ぬら?なんでしゃべれるの?

 『なんでかわからないが、できた。』

 「ちょっと待って、俺一言も喋ってないよね?なんで会話が成立してるの?」

 『考えていることがわかるからな、なんでかわからんが。』

 「え、まじ?考えていることがわかるって、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。それにぬらも、って、あっぶね⁉︎」

 顔の横を刃が掠める。コイツ、的確に俺の首狙ってきやがった!

 『そりゃ戦闘中だからな。』

 「わかってるなら言えよ!」

 『お前の腕に妖力を流して腕を硬くしてやった恩人にそんなこと言っていいのか?』

 あ、なるほど。『明妖親和性』か。前使った時は、鬼を生身で殴れるほど硬くなってたし刃を弾けたのも納得。

 「この前は形代に触れないとできなかったのになんでできるの?」

 『なんだかわからないができた。』

 さっきからまともな回答がかえって来てないけど!なんで本人がわかってないんだよ!

 ま、でも、これで戦える。

 「ぬら、ちょっとだけ付き合ってよ。」

 『ああ、さっさと片付けて晩御飯を食うぞ。』

 「その前に桜に連絡だね。」

  さぁ、落ち着いて行こう!

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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