第五十五話 私は従者

 私、青龍寺 茜は青龍寺家の汚点である。自分でいうのもなんだが、生まれてきてはいけなかったと思う。

 青龍寺家は代々、安倍晴明様が作られた十二式神の内の『青龍』を任されてきた。これは青龍寺家の者が水に関する術式を得意としているからだ。

 また、青龍寺家の者は髪の一部が青くなり、その色が濃ければ濃いほど、水への適性が高いとされている。

 しかし、私の色は鮮血の様な赤色。ましてや、頭の髪"全て"がだ。しかし、双子である蒼は全ての髪の色が深い青い、『青龍の申し子』とまで言われるほど水への適性が高かった。

 生まれた時点で私を殺すことが青龍寺家内で話されていたそうだ。しかし、3つの要因によって私は生かされた。

 一つは青龍寺家が代々、女性君主であったこと。二つ目は弟、蒼が水への適性が歴代の青龍寺家の中で一、二を争うほど高かったから。

 そして、三つ目は現当主である母からの一言によって救われた。

 母は私を一人の子として、弟と差別することなく育ててくれた。

 また、母の言葉のおかげで、青龍寺家では苦もなく生活することができた。

 しかし、子供というのは大人の悪意に敏感だ。隠しきれない悪意は小さな私でもなんとなくわかった。

 それでも私は弟のためにできることをしていた。

 それは母がいつも言っていた「茜はお姉さんだから、しっかり弟を守ってあげなさい。」という言葉が私の中で生き続けていて、姉であることは私の誇りだったから。

 でも、私の考えは1日で変わってしまった。

 母が死んだのだ。病気などではなく、任務中に鬼人に会い仲間を逃がすために一人で残って戦ったからだそうだ。

 鬼人は人を食うことで強くなる。そのせいで母の骨は帰ってこなかった。

 しかし、唯一、ロケットペンダントネックレスだけが帰ってきた。

 蓋の部分には『茜へ』とだけ書かれていて、蓋が硬く閉ざされていた。それは何をしても開くことはなかった。

 私は弟の見えないところで一晩中泣いた。そして、気がついたら時には深夜になっていた。

 泣きじゃくったせいか、喉が渇き、飲み物を飲むためキッチンへ向かった。

 薄暗い廊下を歩いていると人の声が聞こえ、小さい私は好奇心に負けて、声の元は近づく。

 その声は父のものだった。

 「茜は弟を守るだけの人形なのに、なぜ、あいつにまで愛を与え続けたのだ!姉であるからといって生かしているわけではないものを!あの子は生きていても無駄であるというのに!」

 その言葉は私の誇りを打ち砕いた。小さい私でも理解した。私は生きている価値など元からなかったのだと、弟を守るだけのただの操り人形なのだと。

 『弟を守ってあげなさい』という母の言葉もその意識を植え付けるために言っていたのだと。

 私はその日から弟から距離をとり、姉ではなく従者として蒼様に尽くすようになった。

 蒼様はそれが気に食わないみたいだが、私の価値は姉としてではなく、防人さきもりとしての私なのだ。

 これから先も、姉としての私は存在しない。ただ、弟のために死ぬ人形であり続ける。

 それにしても、最近は気が抜けない。出雲かなた、あいつはどこが恐ろしい。今日の演習場で、初めて出雲の術式を見たが、あれは本当に陰陽師になって半年なのだろうか?

 明力は少し荒いがそれでも同世代の陰陽師のレベルを遥かに変えている。

 それに、殴ったあの一瞬ですら私の拳の体温を奪った。数秒触れていれば凍っていたかもしれない…。

 蒼様と組み手をしていたみたいが、遠くからでもわかった。出雲は対人戦闘に関しての感が異様に鋭い。蒼様が素人相手に使わないようなことまでしていた。

 私ですら避けることができるか怪しい拳をスレスレとはいえ捌き、反撃までしていた。

 結果としては蒼様が勝ったようだが、肩で呼吸をしていた。

 あれほどの余裕がない蒼様は久しぶり見た気がする。

 出雲かなた、あいつは注意し続けなければ。

 蒼様をできるだけ近づけたくはない。蒼様は気になさっているが私は気がきでない。

 出雲 かなたについて調べておかなければ。あいつは普通の高校生から陰陽師になったと聞いているが、嘘にしか聞こえない。陰陽師になって一年も満たないものが固有陰陽術式を行使できることがまずおかしい。

 そう考えると中野 桜も同様だ。

 中野の術式もレベルが高い。近くに立つだけで肌が焼けるほどの熱量。しかも、矢の速度はとても早く、下手をすれば狙撃銃の弾速とほぼ同等。

 頑丈で有名な演習場の壁すら溶かす。あれがまだ成長途中の固有陰陽術式なのが恐ろしい。

 これからも警戒をしなければ…。二人の血縁関係、家族構成などを調べなければ。

 他の警護班の者に調べさせてもわからないことが多すぎる。

 出雲かなたの母親の失踪や父親の家のこと、中野桜の家の血統など隠されているようにしか思えない。

 私たち警護班はそれなりに陰陽連の中でも地位は高い。多くの資料に閲覧許可は出ているが、あの二人のことは十二家当主クラスの権限がないと見れないらしい…。

 出雲かなた、中野桜、この二人は陰陽連にとってそれほど重要な存在なのか?

 怪しい。正直に言って早めに排除しておきたい。しかし、これほど陰陽連に隠されているということはそう簡単に手が出せないだろう。

 やはり、情報が足りない。蒼様なら何か知っているかもしれない。それとなく聞き出そう。

 私はただの操り人形。蒼様のために生き、蒼様のために死ぬ。これが私の人生だ。

 お母様もそれを望んでいるのだから…。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

陰陽百鬼 Moi @jinchi23

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ