第五十四話 固有術式発表会

 移動すること約10分、演習場14番につく。

 校内にあるとは思えない広さだよなぁ。それに、演習場はまだまだあるし、山や工場を模した演習場まである。本当に、どこかのアカデミアみたいに広い。

 「それじゃあ、かなた、桜さん、お願いできるかな。僕もやるから。あかねえさんも。」

 そう言われると4人は徐々に距離をとり、詠唱を始める。

 それじゃあ、はじめますか。

 体内から明力を腕に集める。そこから徐々に籠手の形に変えていく。

 『祓え給え、清め給え。全域氷結、救急如律令』

 明力は一気に具現化する。

 よし、成功!前より綺麗にできたかな。やっぱり、男の子としてはこういうのはテンション上がるよね。

 桜の方も綺麗な焔の弓ができている。触っている桜は熱くないのかな?

 さて、俺たちはできたけど蒼や茜さんはどうなんだろう?

 蒼の方は体全体に青い紋様が広がっていた。その紋様はまるで荒々しい波のようだった。

 鮮やかな青、すごい綺麗。体全体から明力が満ちてる。

 茜さんの方は…、何も変わってない?

 でもさっき詠唱もやってたよね?どういうこと?

 「とりあえず、みんな初瀬さんのところに戻ってー。」

 蒼の声でみんなが集まってくる。桜が徐々に近づくにつれて熱くなってくる。

 「あ、ごめんね、暑いよね。すぐにしまうよ。」

 焔の弓は桜の腕の中に消えていく。

 おおー、便利。流石に移動中まであったら邪魔だよね。

 「それにしても、蒼くんのはわかりやすいけど、茜さんのはどこが変わったの?」

 見る限りはあんまり変わってないけど、そんな訳がないし…。

 「やっぱりわかりずらいよね。かなた、一回あかねえさんの拳を受けてみて。そっちの方が説明しやすい。その代わり、しっかり防ぐことと受け身もしっかりね。」

 「う、うん?わかった。」

 俺と茜さんは蒼たちから離れる。

 「出雲さん、しっかり防いでくださいね。でないと腕の骨、折れますよ。」

 「は、はい…。」

 正直、受けたくない。とてつもなく怖いよ…。

 茜さんはゆっくり拳を出してくる。殴るつもりがないかのようなスローモーションで。

 こんなの防ぐ意味ある?でも、意味もなく言う訳がないし…。

 とりあえず、術式を解かずに腕に明力を集めておこう。

 少しずつ近づいてくる拳、そして俺の腕に当たる。

 瞬間、重く鋭い威力が腕にやってくる。俺の体は軽く吹っ飛ぶ。

 いったあああああ!とりあえず受け身とらないと、、待って壁がまじかに迫っているんですけど!!

 俺はすぐさま雪の結晶を大量に作り出し、壁にぶつかるまでに威力を殺し切った。

 やばかった、あの拳の速さでここまでの威力出すってどういうこと…。防ぐことをやめていたら腕の骨は折れていただろうな。蒼がしっかり防ぐことって言った意味が分かったよ。とりあえず、みんなのところに戻りますか。 

 俺は明力集中を足に行い、一気に加速した。

 

 「お帰り、かなた。どうだった?あかねえさんの拳は?」

 「事前にもう少し情報が欲しかったです。死ぬかと思ったよ。でも、この術式なら前衛の方があっている気がするけど?」

 あれだけの威力をスローモーションで出せるなら、本気で殴ったら威力が跳ね上がるはず…。

 でもそれをしないってことは何かあるのかな?

 「今のは、私の拳の接触する瞬間に明力と術式が完璧なタイミングで噛み合ったからです。普段の戦闘中にそれができればいいのですが、集中力がとてもいることなので、それに私の本来の戦い方はこれ・・ですので。」

 そういって手に握っていたのは真っ赤なクナイと手裏剣。

 「私は血で形成したこれらを使います。初瀬さんと違って体外に出しすぎると貧血で倒れかねないので、血の糸で回収できるようにしています。離れすぎるとその分、血を使うので後衛にも下がれないのです。」

 血で作った糸は伸ばせば伸ばすほど血を使うってことか。

 クナイや手裏剣を形成するだけでも血を使っているのに糸まで大量に使ったら、それは貧血を起こすよね。

 「それでも、あかねえさんのすごいところは、数メートル離れていても的確にクナイや手裏剣を当てられるところなんだ。しかも、前衛の戦闘中でも隙間をぬってあてることができる。」

 何それすごい。前衛の戦い方って大抵、敵と触れ合うぐらい近いはず。なのに当てることができるってことは動きを予想するのが上手いのかな?

 「あの、拙者に術式を教えていただけないでしょうか?」

 あ、忘れてた。目的は初瀬さんに術式を教えることだった。

 「ごめんね、あかねえさんの自慢しているとどうしてもね。それじゃあ一人ずつ説明していこうか。それじゃあ、まずかなたから頼めるかな?」

 「わかった。」

 といっても何を説明するべきなのだろう?わかっている範囲でいいかな?

 「俺の術式は『氷晶陰陽拳ヘイル』。見ての通り、陰陽術で籠手を形作って近接戦闘で相手を凍らしたり、氷霧を作ったり、冷やす ・・・ことが関連することはある程度できると思う。」

 そう考えると『氷結領域アイスワールド』の自動攻撃ってなんだろう?

 ぬらがいるからできるってことかな?

 「次は私だね!私は明力で作った炎を弓の形に変えて、炎の矢を打ち出す爆焔豪弓ラヴァ!もともと弓道をやっていたから、こんな術式にしました!」

 桜は確か、『操焔師』だったはず。自分の技術にあった術式を作ったって前も言っていたし、威力も十分。それに弓自体も明力でできているから、必要のない時は収納できる。その分、明力の消費も抑えられる。

 そう考えるとすごいな。俺の術式はずっと出しっぱなしだから明力が微量は必要になるし。

 「では、次は私ですね。私の固有陰陽術式は『血ノ恵ちのめぐみ』です。血液に明力を流すことで血を操作することができます。しかし操作といっても血液の構成要素を変化できるわけではありませんので。」

 血を操るってことは液体を操るってことだよな?それって—

 「でもそれって、鬼を祓えるほどクナイや手裏剣が固くなるものですか?」

 そう、それ。鬼というのは普通の刃物では、まともに傷がつかない。武器自体に明力がまとっている、もしくはこもっているなら別だけど。

 「それは、血液内の鉄分を利用して周囲をコーティングしているのです。そして内部を血液で満たしていますので、血液がクッションの役割を担ってくれます。だからすぐには砕けないクナイが作成できるわけです。」

 なるほど。明力で操作しているから鬼にもダメージが入って、かつ、血の成分を最大限活用しているんだ。

 「それじゃあ最後は僕だね。僕の固有陰陽術式は、『雫ノ恵しずくのめぐみ』だよ。僕の明力が流れている液体なら、大抵のものは操ることができる。」

 「でも、蒼って近距離で戦うことが多いよね?どうやって戦うの?」

 「そうだね、見せた方が早いし少し離れてね。」

 そう言って蒼も俺たちも距離を取る。蒼は徐ろに腕を上げると水色の透明な膜が腕から伸びる。

 「僕はこの水で出来た剣を使う。耐久力はあまりないけど、切れ味は抜群だよ。そうだね、イメージしやすいものは水圧カッターかな。」

 水圧カッターって金属すら切ることができるって聞いたことがある。それに蒼の場合、現代技術では出せない水圧で切ってそう。

 「これでみんなの術式がわかったね。桃、参考になったかな?」

 「やはり、色々な術式があるのでござるな。なんとなく、理解できたでござる。あとは拙者の想像力をどこまで具現化させることができるかでござるな。」

 「桃様ならできますよ。私ならいくらでも力を貸します。」

 「私も!私も力をいくらでも貸すよ!」

 女子3人が仲良くするのはいいけど、なんか疎外感が…。

 「それじゃあ、みんな今から組み手や各自に合った訓練をしようか。かなたと僕は組み手を、他の桜さんとあかねえさんは桃さんに教えながら、訓練をお願い。」

 蒼の指示に従ってみんな訓練を始める。

 「かなた、今回は体術だけでいこう。術式ありだとどうしても腕を切り落とす可能性が出てきちゃうから。あ、でも明力で補強はありだよ。」

 つまり、今まで行ってきた訓練と同じ条件ってことか。

 俺は紅蓮先生に鍛えてもらったから体術には自信が少しだけある。でも、前衛を名乗り出るぐらいだし、蒼も相当の使い手かもしれないし、真面目にやっていこうかな。

 「かなた、真面目にやってよ。僕も真剣にやるから。」

 「わかったよ、それなら先に3本取った方がジュース奢るってのはどう?」

 「いいね。かなた、泣かないでよ。」

 「蒼こそ、ジュース奢ってもらうからね。」

 「コインを投げるから、落ちたら開始ってことで。」

 コインが蒼の親指から中に放たれる。

 それじゃあ、勝たせてもらいましょうか!

 

 

 なんて思っていた時期が俺にもありました。

 簡単に3本取られた。

 何あの動き、急に拳は速くなるわ、殴られると思ったら急に止まって死角から蹴りがくるわ、もう何これ?

 「かなたは基礎は完璧なんだけど応用ができてないね。」

 「さっきの拳の動きが変わったのってなに?速さが変わったり、急に止まったり。」

 明力の補強って身体能力の向上だけで、あんな人の動きを越えることはできない、、はず。

 「かなた、明力弾って知ってる?」

 「体内の明力を体外に放つ基礎技だったけ?」

 「その通り。それを放つ時に反動がくるだろ?それを利用する。拳を放つ時に加速するなら肘から軽く明力を放つと、一気に加速する。」

 「ちょっとやってみる。」

 拳を注ぎ出す瞬間に肘から軽く……、あ、やば!

 拳が一気に加速してそのまま、体が前に吹っ飛ぶ。そして肘からは野球ボールぐらいの大きさの弾が放出され、壁に強い衝撃。

 「かなた、それはやりすぎ。」

 「……いたた、だって加減がわからないんだよ。というか後ろに人がいなくてよかった。それにしてもこれすごいな、腕がもげるかと思ったよ。」

 「実際、加減を間違えて腕が吹っ飛んだ人がいたそうだよ。」

 …ヒェッ、なにそれ、次から本当に気をつけよう。

 「もうそろそろいい時間だし、解散しようかな。」

 時間を確認すると6時をすぎていた。一応、高校で授業を受けていることになってるからこれ以上遅くなるとなるとなにかいわれるかもしれない。それに、演習場の貸し出し時間も迫ってきてるし。

 「そうだね。桜たちのところに戻って解散にしよう。」

 そこから帰路に着いたのはすぐ後のことだった。

 



——数時間後

 青龍寺家の屋敷。そこはとても広く、豪邸と呼ぶに相応しいだろう。多くの使用人もおり、青龍寺家の繁栄を示している。

 その屋敷の奥の座敷。まるで、本丸御殿のような作りになった部屋。

 そこへ呼び出され、部屋に入った茜はすぐさま頭を下げる。

 座敷に鎮座する男が言葉を発する。

 「蒼の周りに変な虫がついていると報告されている。これはどういうことだ、茜?」

 「申し訳ございません。私は止めたのですが、蒼様がどうしてもと…。」

 男は茜へ近づき、大きく右手を振り下ろす。

 「茜、蒼はお前の主人だ。その様なことは二度と起こすな。青龍寺家は名家なのだからな。」 

 「はい、申し訳ございませんでした。」

 これが、茜の"普通"の生活なのだ。

 

 

 

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