第五十三話 中衛と演習場

 だが、心配は杞憂に終わった。蒼の方から組もうと言ってきてくれた。

 当然、蒼と組むということは茜さんも付いてくる。

 あぁ、本当によかった。茜さんにすごい形相で睨まれているけど、蒼と組めてよかった。

 「班も作れたみたいだな。なら、あとは前衛、中衛、後衛を決めてプリントに書いて俺に提出してくれ。今日の授業はそれが終わった班から解散していいぞ。」

 紅蓮先生が話終わるとまたガヤガヤし始める。

 前衛、中衛、後衛を決めるって言ったってなぁ、俺は桜の戦い方しか知らないし。

 蒼に桃さん、茜さんのことはまだ知らないからなぁ、うーんどうしよう…。

 「かなたと桜さんはどんな術式を使うの?僕は中衛向きであかねえさんは前衛向き。確か、桃さんは後衛向きだったよね?」

 「そうでござる。拙者は『女忍師』、いわゆるクノイチでござる。隠れつつ援護するのが得意でござる!」

 「私は『血操師』。主に自分の血をクナイなどに変えて戦うことが多いです。それと蒼様、私のことは茜とお呼びください。」

 「嫌だよ。あ、僕は『水操師』。前衛向きだよ。」

 会話の間に口喧嘩するなんて、なんか慣れてるって感じがするなぁ。

 この流れなら俺たちも言った方が良さそうだな。

 「俺は『氷術師』。前衛が得意かな。」

 「私は『炎灼師』。後衛からの弓の狙撃ができます!」

 「なら、僕もかなたが前衛で。あかねえさんが中衛、桜さんと桃さんが後衛で。みんなそれでいい?」

 「私に異論などございません。」

 「拙者も大丈夫でござる。」

 「私も大丈夫だよ。」

これ、意見しずらいなぁ…。でも、やってみたいことがあるし。

 「ごめん、蒼。俺、中衛にしてくれないか?やってみたいことがあるんだ。」

 茜さんがすごい形相で睨む。というか、殺気混じってない⁈本当にごめんなさい!

 「……うん、わかったよ。その代わりそのやりたいことをみんなに話すこと。」

 「それは当然。後でちゃんと話すよ。」

 「それでは、私がプリントを提出してまいります。」

 「あかねえさん、ありがとう。」

 な、なんとか中衛になれた…。茜さんが本当に怖かった。蒼の意見にちょっとでも文句を言ったら殺されそうだなぁ…。

 「で、かなたは何をしたいの?」

 「拙者も気になるでござる!固有術式関係のことでござるか?」

 「うん。茜さんが帰ってきたらちゃんと話すよ。」

 俺がしたいのは、この前使った『氷結領域アイスワールド』の応用。この前はぬらの力を借りて、暗気を自動で攻撃するようにしていた。

 しかし、今回はみんなと現世での任務。だから、俺一人で術式の展開、妖怪を自動攻撃をするようにしたい。

 一回使ったから感覚的なことはわかっているし、なんとか一人でも発動できると思うし。

 でも、陰陽師になる前に妖怪に襲われたから妖気がどんな感じなのか知らない。

 それに俺を中心に領域は広がるから、もし前衛なら後衛の桜や桃さんが領域の中に入るかわからない。

 俺が中衛にいれば前衛、後衛に領域を広げられる。

 「——って感じのことをしたいんだ。」

 「そういうことなら大丈夫。その代わり、前衛に戻れるならその時は戻ってきてね。僕だけじゃ数が多いと祓いきれるかわからない。」

 「わかったよ。」

 「なんだか、拙者だけ固有陰陽術式を使えないと疎外感を感じるのでござる。」

 …え、そうなの?蒼はなんだか使えそうだなあとは思っていたけど、まさか茜さんまで使えるなんて。

 「だ、大丈夫だよ!私みたいなダメな子でも使えたから桃もすぐ使えるようになるよ!」

 「ありがとうでござる、桜。術式のイメージがうまくできないのでござる。あ、そうだ!かなた殿、桜、お二人の術式をこの後見せてもらえないでござろうか?そうしたら、少しは違う発想ができるかもしれないでござるし…。」

 見せたいのはやまやまなんだけど、そんな簡単に見せていいのかな?

 先生は前、秘匿の義務とかなんとかって言ってたような気がするし…。

 「桃、ちょっと待ってて。紅蓮先生に聞いてくるから。」

 桜も同じ考えになったのかな?でも、それが一番早いしね。

 「できれば、許可が降りるといいね。僕もかなたの術式のこと知りたいし。」

 一瞬、雰囲気がかわった?いや、気のせいだよな。今も変わってないし、俺が疲れてるだけっぽいな。

 「おーい、かなたーちょっときてー。」

 呼ばれた方を見れば桜が手を振っている。紅蓮先生も『ちょっと来い』みたいに手を動かしてる。

 え、俺怒られるの?恐る恐る近づく。

 「演習場の許可は俺が取ってやる。固有陰陽術式を見せるのはいいが、火力を間違えるなよ。」

 え?それだけ?

 「この前、秘匿義務がなんとかって話してませんでしたっけ?」

 「共鳴者としての固有陰陽術式のことだ。まだ使ったことすらないだろ。だから今は気にするな。」

 そういうことなら大丈夫かな。でも、今言われて気づいたけど、共鳴者の固有陰陽術式って想像できないな…。

 ちょっと不安だけど、まぁ、なんとかなるかな。

 「わかりました。演習場のことはお願いします。」

 「ああ、演習場は14番を予約してやる。お前たちが演習場に着くまでには許可を取ってやるから、さっさと行ってこい。桜もしっかり教えてやれよ。」

 「はい!」

 「ありがとうございます!」

 それじゃあ、蒼たちと移動開始だな。

 

 

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る