第五十話 十二輝の答えと対策と怪しい視線

 私—十六夜繊月は出雲かなた、中野桜両名の処遇を考えていた。

 ぬらりひょんさんの言葉を信じるなら、今のかなたくんが脅威になることはなさそうだ。

 あの二人はこの半年でめざましい成長を遂げた。普通の人間にはあり得ない速度でだ。

 いま、『十二輝』の議論はその点を含めてあの二人をどう対処するかで意見が割れている。

 一つはこのまま二人の成長を促し、守り育てていくこと。

 もう一つは脅威になる前に排除することである。

 「あの二人の成長はすごいなんて言葉では表せないの。成長の限界がまだ見えていないの。このままいけば、私たちと肩を並べる陰陽師になるの。」

 「それは甘い考えだぜ、太裳たいじょう。片方は知らんが出雲かなた、あいつはやべー。肩を並べるどころか、下手すりゃ十六夜様にまで届く化け物になりうる。そうなる前に殺しておくべきだ。」

 「だけど下鴨しもがもさん、その化け物が陰陽連の武器になるかもしれないんですよ?」

 「騰蛇とうだの言う通りやで、六合りくごう。まだ結果を出すのは早計ってもんやで。」

 十二家はあれやこれやと意見を出している。実際、かなたくんは私に届きうるポテンシャルがある。

 しかしそれは、もし、彼の才能が開花し敵に回るようなことがあれば、もはや私にしか止められない。それは陰陽連にとっても私にとっても避けたいことだ。

 今のところ、そんな様子はなさそうだけど…。

 「それなら、我ら十二家が一人ひとり出雲かなたを試すっていうのはどうでしょう?それなら、彼の人格を見定めつつ殺すことも容易くなるのでは?」

 一気にその場が静かになる。意見を出した本人以外は考えているみたいだ。

 「騰蛇、それはこちらが試練を与えればいいのか?それとも陰陽連が出した試練の経過を見ればいいのか?」

 「それはあなた方に任せます。直接教えてもいいし、経過の観察でも。そして、危険と分かり次第殺す。これでいいのでは?」

 しばらくの沈黙。みんな納得したみたいだね。

 今のかなたくんなら十二家の誰でも対応できる。かなたくんには悪いけど、これが最大限の譲歩かな。

 「決まったみたいだね。それじゃあ、残りの議題は3名の功績をどうするかと鬼人の対策だね。」

 「聞く限りだと出雲かなたは二級、中野桜は準二級の実力があるの。でも、まだまだ実戦経験が少なすぎるの。」

 「そうだな。こいつらはまだ陰陽師になって半年ちょっとだしな。急に三級を飛ばして準二級や二級にしたら色んなやつらから目をつけられる。」

 「そやな。そう考えるなら、二人とも三級に昇進っていうのが妥当やろなぁ。でも、紅蓮の坊やはどないしはります?報告書を見る限り、最後の方は出雲かなたしか意識がなかったんやろ?」

 「紅蓮先生に限って信じたくはないです。でも、それが真実なら紅蓮先生は一級のままでいいと思います。」

 「他に意見はないかな?」

 「問題ないと思うの」

 「そうだな。俺もそれに納得だ。」

 他の十二家も納得してるみたいだし、大丈夫そうだね。

 「よし、なら決まりだ。出雲かなた、中野桜の両名は三級、鬼灯紅蓮は一級のままということで異論はないね?」

 『はい。』

 十二家のみんなも納得してくれたみたいだね。

 まぁ、かなたくんなら乗り越えられるだろう。それに必ず桜さんも一緒だろうし、彼女にとってもいい経験になる。

 そして残る問題は……

 「なら次は鬼人についてどうするかだ。」

 ここが一番難題だね。

 報告書を見る限り、人とのコミュニケーションを可能とし名前もある。紅蓮くんの明装を一撃で破り、腕を飛ばした。

 紅蓮くんの明装を破るだけでも普通の鬼じゃほぼ不可能。それを軽々やってのけるほど相手は強大かつ思考能力もある。

 それに鬼は『大七鬼人セブンス』の『暴食グラトニー』と名乗った。

 つまり、他にも七つの大罪に関する名前を持つ鬼が少なくても6人はいることになる。

 そうなると十二家や私だけでは対応できなくなる。

 「今のところ、会話が可能な鬼人で確認されているのはこのアグールって鬼人だけなの。」

 「そのようだな。俺たちの任務でも今まで異変がなかったしな。こちらには判断できるほどの情報もない。異常があり次第逐次報告ってのが妥当だろ。」

 「ですね。下鴨さんの言う通り、こっちは情報収集が最優先です。対策を立てるには時期尚早じきしょうそうです。」

 「我、理解。情報、必要。収集、努力。」

 「そやな。あんまり口開かん天空てんくうがここまで言うんやから今回は情報収集に全力あげるほうが懸命やな。陰陽神おんみょうのかみ様もよろしいですか?」

 「そうだね。十二家のみんなは任務にあたりつつ情報を集めてね。私もできるだけ動いてみるよ。十二家のみんなも十分に警戒しつつ任務に当たってくれ。」

 『了解。』

 近いうちにまた十二輝を開くことになりそうだね。

 彼らなら2週間もあれば十分だと思うけど、かなたくんたちの事を考えると一ヶ月後ぐらいになりそうだね。

 「これで、今回の十二輝を閉会とする。解散。」

 『は!』

 十二家が一斉に立ち上がり、その場を離れようとした。

 ——ッッッ!

 十二家が1秒とたたずに陰陽術式を展開する。

 全員が反応しているということはみんなも感じたのだろう。あの私たちを観察するような視線を。

 だが、私はこれを一度体験している。数ヶ月前、理事長室で感じた視線と同じもの。

 でも、誰だ?十二輝は毎回場所を変えているし、当事者と十二家以外は知る術がない。

 しかし、こんな陰陽連の最高戦力が集まった場所で事を起こすなんてこと、馬鹿か狂人がすることだ。

 もう気配が消えている。気配が消えていることすら気が付かなかった。十二家や私の警戒をすり抜けるなんて、どんな化け物だ。

 「十二家の諸君、今のことを含めて情報収集を頼む。私たちの警戒をすり抜けるほどの手練てだれだ。いつもよりも警戒レベルを上げて任務に挑むように。」

 『は!』

 これは私も本腰を入れてかからないとね。鬼人といい、共鳴者といい、問題は山積みだね。

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