第四十五話 ぬらりひょん

 前とは違って俺はしっかりと受け身を取り、すぐさま桜の元まで戻った。

 「よかったよ!先生、かなた!どこも怪我してない?痛いところは?」

 「腕が痛いけど、大丈夫。」

 「俺も大丈夫だ。俺はほとんどなにもやってないからな。」

 「そんなことないですよ。先生が糸で鬼人を止めてくれなかったら、この作戦がうまくいくか怪しかったですから。それにしても、ちゃんと祓いきれたんでしょうか?」

 俺の領域は桜の矢で吹き飛んでるし、あいつが生きていたとしてもわからない。

 というか、あそこまで爆発が激しいとは思わなかったし。  

 「あれほどの爆発をあいつはモロに受けた。祓えきれなくても相当消耗したはずだ。あいつがいないうちに俺たちも現世に戻るぞ。」

 「了解です。」

 俺たちは周囲を警戒しながら、移動を開始した。

 ——刹那

 後ろからのドゴッ!という音と俺の横を、正確には先生のいた場所を疾風が通りすぎる。

 そして、鋭い痛みが俺の腹を襲う。

 ッッッカハァ‼︎

 い、いったい何が起こった?

 次の瞬間、首を握られ身体を持ち上げられる。

 い、、いき、が……。

 「さっきのは効いたぜ。まさか、脚をもってかれるとはな。」

 こいつ、生きて…、い、たの、か…。

 先生は…、こいつの攻撃を、モロに受けていた。

 多分、、意識が飛んだ。こいつの攻撃を防いだ俺だからわかる。

 俺はこの腕をなんとか、解かないと…。

 両手で握れば…こいつの腕ぐらい、すぐに氷に変えれるはず…。

 俺の残りの明力を全て、ここに使う。命を削ってでも桜だけは…守ってみせる。

 だが次の瞬間、鬼人の頭を爆炎が襲う。

 「か、かなたは…ころ、させ…ない‼︎」

 桜が矢を打ったのか?何で、逃げないんだ!

 「ああもう、鬱陶しいなぁ!お前はいらねえんだよ!」  

 鬼人は空いている腕の関節を外し、瞬間的に腕の長さをのばす。

 大きく振りかぶり、桜を殴り飛ばした。

 桜は地面に強く打ち付けられ、動かなくなった。

 「これでやっと、お前を喰えるなぁ!」

 いや、それはできない。今ので、やっと決心がついた。

 「ぬら、頼む。」

 「ああ?何言ってやがる?」

 次の瞬間には音もなく鬼人の腕が地面に落ちる。

 「ああ、任された。」

 いま鬼人の前に立っているのは陰陽師ではなく、鎌倉時代に夜を支配していた妖怪だ。

 「そこの鬼人、今日のところは引け。俺はこの身体の主に死なれるのは困る。それにお前も片脚、片腕を失ってもう戦えないだろ?」

 「はぁ?そんな訳ねぇーだろ‼︎」

 鬼人のストレートがぬらの顔にめり込んだ。だが、次の瞬間には姿がかき消え鬼人の背後に現れる。

 「今は見逃すと言っている。いなというのなら……、お前には『死』を与えなければならない。」

 ドサッと鬼人が尻もちをついた。

 俺にもわかる。これは、鬼人の殺気とも別格のもの。

 いつものおちゃらけているぬらとは違う。

 これが『魑魅魍魎の主』としてのぬらりひょん。

 「わ、わかった。今回のところは引く。それと前言撤回だ。俺はアグールだ覚えとけ。」

 鬼人はすぐさま地面を殴り、砂煙を立てた。砂煙があけた時にはそこには何もいなかった。

 「かなた、もう大丈夫そうだ。早く変わるぞ。」

 「ありがとう、ぬら。」

 これでひと段落だよな?桜や先生が心配だ。早く行かないと。

 あ…あ、れ?身体、うご……か、ない?

 俺はバランスを崩し、地面に倒れる。

 な、何で?

 『少しとはいえ、俺と変わったからな。お前の身体自体が力に耐えられずに自壊したんだ。だが、安心しろ。もう、陰陽師どもが来る。』

 本当に?せ、せめて自分で確かめるまで、は気を失うわけには、いか、ない…。

 「そこに倒れているのは生きているの?」

 だ、れ?

 「まぁ、明力は途切れておらんから死んでいないの。あとは妾に任せて安心するが良いの!」

 つまり、陰陽師?何で一人なんだ?一人じゃ、桜や先生を助けれない…。

 「…他、にも…ふ、二人…います…。お、俺はい、いです…から、先生…や桜、を……」

 「わかっての。お前も合わせて三人絶対に助けるからの。だから、安心して休むの。これでも妾、陰陽連十二位なの。」

 つまり、十二家…。

 『かなた、もう休め。大丈夫だからな。』

 わかったよ…ぬら。あとはよろしく…。

 俺は意識を手放した。

 

 

 次に目を覚ました時には見たことある天井。どこの天井かは思い出せないけど。

 とりあえず起き上がって周りを確認し……、って腕が完全にギブスで固定されて動かせない。

 足でなんとか起き上がる、けど痛い。なんとか動かせるけど…。

 俺はなんとか起き上がる。

 「あ!かなたくん起きちゃダメだよ!まだ完全に癒えてないんだから!」

 そこには彗馬さんが立っていた。俺がいた部屋は研究所の隣接された医療室だった。

 「彗馬さん、桜や先生は!あれからどうなったんですか!」

 「まずは自分のことを心配して。桜さんも紅蓮も大丈夫。かなたくんより軽傷だから。といっても紅蓮の方は君よりましってだけで数カ所、折れてたけどね。」

 つまり、二人は助かったんだ。よかった、本当に…。

 地面に倒れた後から記憶が曖昧だ。どうして俺は助かったんだ?

 「彗馬さん、俺が倒れたあと何があったんですか?」

 「それは…もうすぐ来る方に聞いた方がいいね。僕はそういうことは苦手なんだよ。ほらきた。」

 扉が勢いよく開く。そこにいたのは鮮やかな桃色の髪をもつ女性とクマのぬいぐるみだった。

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