第四十三話 狂気の鬼人
俺—出雲かなたは急いでポケットからインカムを取り出し、ぬらへ電話をかけた。
前よりスムーズにかけられる様にはなっているので、すぐに出てくれた。
「ぬら、力を貸してくれ!」
『当然だ、全部わかっているからな。だが、今回は刀ではなく体術でいけ。この半年間で鍛えた成果を確認するまたとないチャンスだ。』
「だけど、俺はまともにぬらに攻撃を当たることできなかったんですけど…」
『かなた、今回の目標は祓うことじゃない。時間を稼ぐことだ。トレースで俺の体術を貸してやる。俺の体術とお前の術式があれば時間稼ぎは余裕だ。攻撃の方向は俺が言ってやるから安心しな。』
「うん、そうだね。時間を稼ぐことを第一に考えて戦うよ。」
俺は小村丸を地面に置き、すぐさまトレースを行う。
うん、前よりはっきりわかる。全身の全ての感覚が鋭くなってるな。
これならいける気がする。
『かなた!すぐにそこから離れろ!』
ぬらの声に反射的に身体を動かす。
次の瞬間、さっきまでいた場所に黒い物体が隕石の如く降ってくる。
「へぇぇぇぇぇ、あの速さでも避けるのか。
シッシッシッ楽しくなりそうだな。」
あの恐怖を煽る狂気の笑み。
クソ、俺の本能が逃げろと訴えかけてくる。脚も震えが止まらない。
でも、逃げるわけにはいかない。先生が俺に期待して任せてくれた。
そして何より、桜を守るために。
『かなた、いつ来てもいいように構えておけ!俺が攻撃がくる方向は言うが、フェイントの可能性がある以上お前自身が避けろ!』
「わかった!」
「シッシッシッ、何一人で喋ってながる?まぁ、どうだっていいか。シッシッシッ、来ないならこっちからいくぞ!」
鬼人は一気に距離を詰めてくる。
ッッッ!速い!
『右、左、左下蹴り上げ、左、正面』
ぬらの声のおかげでなんとか避けるたり捌いたりが出来ているけど、こっちから攻撃すれば確実に一撃をもらう。
捌いていてわかる。こいつの攻撃は重く鋭い。一撃でももらえば、致命傷になりかねない。
「オラオラオラ!どうした『共鳴者』!避けてるだけじゃ勝てねーぞ!」
こいつ、攻撃の数と速さが上がってきてる⁉︎
やばいこれ以上は捌ききれない!なら!
俺は鬼人が右ストレートを放った直後、身体をかがめ攻撃の勢いをそのまま使い、合気道の要領で投げ飛ばし距離を取った。
掴んだ鬼人の右腕は真っ白な氷の腕に代わっていた。
よく見ると左の拳や腕にも氷片が所々に付いている。
「お前、まともに俺と戦う気ねぇだろ。今だって追撃どころか距離を取ってるからな。もうめんどくせぇ、全部喰らってやる。」
そういってどこからか
なんだあれ、お札だよな?でも鬼が陰陽術式を使えるはずがない。
俺たち陰陽師は体内に流れる明力で使っている。それは生命力であって、鬼にはそれがない。それなのになぜ?
『闇より
やばい、詠唱が始まった!どうにか邪魔をしないと!
俺はすぐさま地面に手をつき、氷壁で攻撃した。
だが、それよりも先に鬼人の詠唱が完了する。
『
札から出た
な、なにこれ…。さっきとは比較にならない殺気と威圧感。
実際は殺されているわけじゃないのに、何度も自分の首が切れているように感じる。
『かなた!今すぐ、そこを退け!』
動けよ、俺の体!
クソ、恐怖でまともに動かない。理性を維持するだけで精一杯だ。
どうする?どうする?
…あ、そうだ!
自分の下に氷で坂を作って強制的に体を動かした。
刹那——
空気と共に、俺がいた場所が球形に抉られた。
これが鬼人の術式?あいつは一歩たりとも動いていない。
つまりノーモーションの攻撃。原理はわからないけど物を抉り取る術式。
掠りでもしたらこちらは致命傷になりかねない。
こんなの命がいくらあっても足りない。
やっと体が動くようになってきたけど、まともに近づけない。
こんなの必敗じゃないか…。俺はここで死ぬのかな…?
『かなた!諦めるな!どんな術式にも弱点はある!徐々に条件を絞っていけ!桜を守るんじゃなかったのか!』
「べ、別に諦めてなんてない!あいつが次にどんな攻撃をしてくるか考えていただけだよ!」
そうだ…よな…、俺は諦めてなんていられない。俺が死んだら、先生や桜に攻撃が向いてしまう。
それだけは絶対させない、させてはいけない!
『お前の氷の術式はいろんな事につかえる。そこから条件を絞っていけ。』
「わかった!ぬらも力を貸してくれ!」
『当たり前だ。』
……よし。試験段階の術だけど使ってみよう。
『全てを凍らせ 救急如律令』
俺は右手を地面に強く押し当てる。
『
次の瞬間、俺を中心に円状に雪国が広がっていく。
陰陽術式『
俺を中心に円状に広がる氷の世界。そこに入った暗気を自動的に攻撃する。
これなら時間を稼げるはず…。
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