第四十二話 時間稼ぎ
くそ、俺—鬼灯紅蓮の糸の結界が破られている。普通なら気づくはずなのに。
でも、いまはそれどころではない。この隔離された空間からかなたと桜を逃さないといけない。
だが、下手に動けば殺される。今話しただけでも体から嫌な汗が噴き出る。
どんな手品を使ったのかはわからんが俺の右腕は綺麗に切り落とされた。
3分以内ならギリギリ修復は出来る。
この鬼人がそれを許してくれるわけないか。
どうする?
『対の知らせ』で理事長には連絡はいっている筈だ。『茅の輪』からここまでそう遠くはない。
理事長ならすぐに対処してくれる。だが、それまでの時間を稼ぐ方法がない。
片腕だけで守りながら戦うのは無理だ。
「それにしても、一撃で『共鳴者』を殺すつもりだったんだけどな。シッシッシッ、先にお前を食うのもいいなぁぁ。」
くそ、寒気が止まらない。これが本物の殺気。死をも錯覚させる本物の威圧。
だがそれよりも—
「今、お前『共鳴者』って言ったか?」
「さぁーなぁー?シッシッシッ、そんなのどうだっていいだろ。今すぐに喰われるんだからな!」
刹那—鬼の拳が目の前まで迫る。
ッッ⁉︎避けきれない!なら!
俺は狩衣と地面を糸で繋ぎ、体を無理矢理仰け反らせた。
鬼の拳が空を切る。その風圧だけで地面が抉れる。
なんて威力していやがる!一撃でもくらったら致命傷になりかねない!
なんとか距離を取らないと。
だが次の瞬間、白い壁が冷気と共に俺の目の前を鬼を巻き込み通り過ぎていく。
鬼を遠くまで吹き飛ばし、白い世界が辺り一面に広がる。
「なんとか距離をとりました!先生指示を!」
声の元にはかなた。つまり、かなたが今のを?
だが、考えている暇はなさそうだ。
「かなた、俺が腕を修復するまで時間を稼いでくれ。数分でいい頼めるか?」
できれば生徒を危険に晒すなんてことしたくない。
しかし今は隔離され逃げ場がない。理事長が対処するまで時間を稼ぐしか生き残る方法がない。
俺は片腕だけでは数分耐えれればいい方だ。
『茅の輪』まで遠くはなくとも、20分はかかる。
なら、生徒を信じて腕を修復した方が生存率は上がる。
それに、かなたにはあの大妖怪がいる。
「かなた、『共鳴者』の力を使ってでも生き残れ。桜は後方から支援をしてやってくれ。
……二人ともこれは実践だ。死ぬ可能性がある。だが、命令だ!死ぬな!」
「「了解‼︎」」
かなたはその場から離れ、鬼人の方へ向かった。
桜はいつでも打てる様に弓を構えている。
俺もさっさと腕を治そう。
切断面に腕を引っ付け糸で縫い合わす。
明力は生命力の一種。なら糸を生命力まで戻せば、瞬間的にだが一部の修復能力を促進できる。
言葉では『戻すだけ』。だが、そう簡単ではない。
一度完成した術式を明力まで戻すのには相当な技術と集中力がいる。
俺は回数を重ねていくにつれて時間は短くなってはいるが、それでも数分はかかってしまう。
かなたと桜のことは気になるが、腕に集中してさっさと修復してしまおう。
『生命へと回帰せよ。』
糸が淡い光を放ち、徐々に腕に溶けていく。
皮膚が完璧に引っ付いたことを確認し、拳を何度か閉じたり開いたりを繰り返す。
よし、違和感がなく動かせる。
すぐにかなたのところに行かないと。
少し離れたところで戦闘音。この音なら、近いな。明力操作で直ぐに向かえる。
だが、この音おかしくないか?
地面が抉れる音でも何かが爆発する音でもない。
例えるなら、高速で刀と刀が擦れ合う様な金属音。
もしかして、かなた小村丸を使ってのか⁉︎
あれは、刀と同じで正面からの力には強いが横からの攻撃には弱い。
鬼人の攻撃は全てが重く、破壊力が桁違いだ。
正面からの力には強いといっても限度がある。鬼人の攻撃に耐えれるとは思えない。
早く、かなたの元へ行かないと!
……どういう状況だ?
刀ではなく、拳で鬼人と渡り合っているのか⁉︎
金属の擦れる音ではなく、かなたの籠手と鬼人の拳が擦れ合う音だったのか⁉︎
それにかなたのやつ鬼人の攻撃をギリギリのところで避けるか捌いている。
だが、攻撃ができていない。
くそ、俺も一緒に戦ってやりたいが、あれほどの凄まじい攻防に割って入ればかなたの邪魔になってしまう。
こんなこと言っても何にもならない!俺に出来ることをする!
他の鬼達が来ない様に糸の結界を貼り直す。かなたの意識を鬼人だけに向けさせる様にする。
そして、隙あらば鬼人を糸で妨害する。
生徒を危険な目に合わせるなんて、先生失格だな。
それでも、俺たち3人とも生還するにはこれしかない。
かなたの固有陰陽術式で鬼人の拳も徐々に凍り始めている。
そのおかげか鬼人の動きも徐々にキレがなくなってきている気がする。
これなら、時間を稼げる。どうにか耐えてくれかなた!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます