第四十話 陰陽具での戦闘

 『茅の輪』を潜り鬼界に入る。

 やっぱりこっちの空気は重く感じるな。やっぱり暗気が満ちているからかな?

 俺は小村丸、桜は龍翔を構えて徐々に目的地へと近づいていく。

 今回は鬼との戦闘は確実。いつ出てきてもおかしくはない。

 それにしても先生はさっきから余裕を持って歩いている。

 これって強者の余裕ってやつなのかな?

 「そこまで張り詰めなくて大丈夫だ。まだ鬼が出るような暗気の濃さじゃない。今、体に異常はあるか?」

 「異常ってほどでもないですけど、息苦しいぐらいです。」

 「俺もそんな感じです。」

 「鬼が出始める濃さは人に痛みを錯覚させるくらいだ。例えば頭が痛くなったりな。」

 「そういえば、昨日軽く手首が痛くなったような…。鬼との戦いで手一杯だったからあまり気にならなかったですけど。」

 桜は手首だったのか。俺は頭だったような…。

 痛みを錯覚させる…。暗気はよくわからない。

 それに戦闘時に影響するような痛みを錯覚させられる可能性だってある。

 「人や時間によって痛みが出る場所は様々だ。だが、暗気が濃くなっても痛みは昨日の痛みぐらいだ。」

 ってことは戦闘時に影響することはなさそうだな。  

 「でも、痛みが出るまで鬼がいるかわからないって怖くないですか?」

 言われてみたらそうだ。 

 でも昨日、先生はすぐに気がついていたような?あれはなんでなんだろう?

 「そこは明力集中の『視』を使う。それができれば目で濃さがわかるようになる。」

 明力集中ってそんなこともできるんだな。

 だけど、俺や桜はできないから今じゃできないのか。

 どうも明力を一部分にためることができないんだよな。

 「だが、明力の消費量などを考えたら『悟りの面』っていう陰陽具をつける方が現実的だな。」

 「その『悟りの面』ってなんですか?初めて聞きましたけど。」

 「それは狐の面なんだ。視野は少し狭くなるがそれ自体に『視』と似た効果がついていてな、戦闘中に明力集中をしなくて良くなる。」

 聞いてるだけだとすごい便利なものに聞こえるけど。

 それでも先生や仲谷さんは付けていない。

 俺と桜はまだ二人しか会ってないからわからないけど、やっぱり着けている人の方が多いのかな?

 「そんな便利そうなものなんで先生は着けてないんですか?私、明力集中できないから欲しいくらいなんですよ。」

 「あれはな、二級未満の陰陽師がつけているやつが多くてな。二級以上になると鬼界内では『視』と 『聴』が常にできている状態のやつが多くて使われることがなくなる。」

 明力集中を常にできている状態…。俺、出来る気しないんですけど。

 「ちなみに…先生が明力集中を維持できるようになったのって陰陽師になってからどれくらいました?」

 「俺は確か…明力集中ができるようになってから一年だから、約二年だな。それでも、早い方だったはずだ。」

 先生でも明力集中ができようになるまで一年、それを維持し続けるまで一年。

 

 俺、もう半年も経ってるよ…。明力集中すら成功できていないのに、何年先になるんですかね…。

 「明力集中の維持は相当技術がいる。それにお前らが陰陽師になってから半年しか経っていない。あまり気にしなくていいと思うぞ。」

 先生は俺の気持ちを察してフォローしてくれた。

 それでも出来るようにならなければならないのは事実なんだよなぁ…。

 うーん、固有陰陽術式の完成もあるし、明力集中は半年前くらいにぬらが教えてくれるって言っていたし、考えなくていいかもな。

 今はこの任務に集中しないと。

 「もう少しで任務地だ。暗気も濃くなってきている。ここから先は集中して任務に臨むぞ。」

 「「了解‼︎」」

 ここから先はいつどこから鬼が出てきてもおかしくはない。

 細心の注意をはらいつつ前に進む。

 今回の任務は鬼の討伐。

 しかも今回の任務、俺は小村丸、桜は龍翔と武器が限られている。

 俺はすぐに取り出せるように右手は常に柄の上に置いてある。

 それでも焦りすぎて素早く抜けるか不安だけど。

 桜も弓を展開して弦の部分に手を置いている。

 任務はここら周辺の鬼の討伐。といっても初級にも満たない鬼だ。

 昨日の大型とは異なり、大きくても小型犬くらいの大きさしかいない。

 それでも油断はできない。

 そんなに小さくても生身の人が余裕で殺せる力を持っている。

 俺たち陰陽師でさえ、命と隣り合わせなんだ。

 本当なら固有陰陽術式を発動させたいけど、今回は目的がある。

 最近やっと出来るようになった共有陰陽術式『凱』と『豪』を同時に発動している。

 明力操作より効果は低いが意識を明力に割かなくてよくなるからな。

 「鬼が近くにきている。かなたは刀、桜は弓矢を使って倒すこと。これより任務を開始する。絶対に油断するなよ。」

 「はい!」

 「わかりました!」

 俺は刀身を見せる。鞘は狩衣に固定してあるし、そう簡単に落ちないだろう。 

 ……うん。俺でもわかった。

 いる。しかも、大量に。

 音が段々大きくなってきた。

 やっと見えた。小さい鶏が翼を羽ばたかせながら近づいてくる。

 よし。後ろには桜がいる。俺は迷わず距離を詰めるだけだ!

 俺は刀を中段で構える。そして勢いよく地面を蹴る。

 鶏まで数メートル。 

 ぬらのトレースを思い出せ!刀の握り方、太刀筋、筋肉の動き、出来る限り動かせ!

 「おりゃぁぁぁぁ!」

 鶏に向かって刀を横に振り抜く。

 一太刀で数羽の鶏型の鬼を祓うことができた。

 まだまだ!

 すぐさま刀の向きを変え、鬼を斬る。

 いける!これならもっと祓える!

 ……なんて思っていた頃も私にもありました。

 やばい。後ろ全然気にしてなかった。これモロに攻撃当たるっ⁉︎

 …………ん?攻撃が来ない?

 「かなた!後ろは私が射るから、気にしなくていいよ!」

 離れたところから桜が弓を構えるながら叫んでいる。

てことは、後ろの鬼をあの距離から撃ち抜いたのか?

 桜って弓使ったのってこれで二回目だよな?

 なんであの距離から射れるんですかね?

 でも頼りになる!後ろはもう気にせずに戦える!

 俺は刀を強く握りなおし、違う鬼に視線を向けた。

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