第三十二話 波動砲

 嘘だろ。何でかなたから妖力が溢れて出ているんだ。

 俺—鬼灯紅蓮は動揺した。

 人から妖力が溢れるなんて事あり得るわけがない。

 「かなた…。お前何で身体から妖力が…。」

 「それは帰ったら説明します。今は小さいカマキリをどうにかしましょう。」

 くそ、とりあえずはここを凌いでからだな。

そうしないとかなたに説教もできないしな。

 「かなた、本当に戦えるんだな?」

 答えはわかっている。だが、俺の生徒に無理はさせられない。

 「愚問ですよ、紅蓮先生!ずっと守られるだけじゃ嫌ですから!」

 その時のかなたの顔は自信に溢れていた。

 「なら、お前は吹っ飛ばした方を頼む。応援が来るまで耐えてくれ。」

 「了解!」

 かなたはすぐに吹っ飛ばしたカマキリの方へ走っていった。

 よし。これで俺もとことんできるようになった。

 かなたのことは心配だが、素手で鬼を殴り飛ばせていたし、なんとかなるだろう。

 正直、生身で鬼を殴り飛ばせるはずはない。だが、かなたは説明をしてくれると言っていた。

 今はかなたを信じるしかないな。

 俺は身体に喝を入れ直し、近くのカマキリに向かって構えた。

 

 

 俺—出雲かなたは自分で吹っ飛ばしたカマキリを目で捉える。

 しかし、カマキリはすぐに視界から消え視界の外から攻撃をしてくる。

 やっぱり、吹っ飛ばした時は不意打ちでやっと当たったくらいだ。

 攻撃どころか避けることで精一杯なのに…。

 なんとか攻撃しようと殴りや蹴りを放ってみたが全て空を切る。

 明力操作に意識を使っているから、いつもより判断が鈍る。

 くそ、このままじゃ状況は悪化する一方だ。

 せめて、速度を落とせれば攻撃も当てれるのに…。

 でも、段々とカマキリの動きもはっきり目で捉えられるようになってきた。

 身体まで動きに慣れたわけじゃないけど…。

 それに、カマキリの動きが何となくわかってきた。

 このカマキリは攻撃が単調で読みやすい。

 真っ直ぐにしか飛んでこないし、足場が浮石だった時はバランスを崩して関係ない方へ飛ぶ時もあった。

 つまり、足場が悪ければ一瞬隙が出来るかもしれない…。

 よし、考えるよりも試してみるか!

 俺はカマキリの攻撃を避け、カマキリが地面についたと同時に地面を目一杯殴った。

 すると俺を中心に地面にヒビが入り、蜘蛛の巣の様に広がり地面が隆起し始める。

 カマキリはバランスを崩し、隆起の反動で体が空中に放り投げ出される。

 このチャンスを逃さない!

 「おりゃあぁぁ!」

 俺の拳がカマキリの体にめり込む。

 『きゃぁぁあぁぁあ‼︎‼︎』

 カマキリは叫びながら、灰になって消えていった。

 これは祓えたってことかな?

 確か、仲谷クウガって人も鬼を祓ったときこんな感じだったよな?

 「それで祓いきっている。」 

 そこには腕組みをした紅蓮先生が立っていた。

 「見ていたなら助けてくださいよ!先生!」

 「いや、すまん。かなたの初陣はしっかり見たくてな。現世に帰ったら説明してもらうからな。あと、説教も待っているからな?」

 覚えてないかもなんて、考えが甘かったかな…。

 「それにしても、この大きなカマキリはどうするんですか?」

 紅蓮先生が固有陰陽術式で縛った大きなカマキリは標本のように全く動かない。

 紅蓮先生の糸でバラバラに刻むくらいしか思いつかないな。

 でも、そんなことしたら、またあのすばしっこい小カマキリが量産されてしまうかも…。

 考えただけで気持ち悪い。

 「それは大丈夫だと思うぞ。あいつが応援に来てくれているみたいだしな。」

 そういうと紅蓮先生は目線をカマキリのほうへ向ける。

 俺もそれにつられて目線を向ける。 

 そこには一人の男性?が立っていた。

 その男性?は両手を腰の部分で構えはじめる。

 どこかで見たことある構え方。それは男子の九割は知っている構え方。

 手と手の間に段々と光のが集まってくる。それは次第にドッヂボールくらいの大きさになる。

 そして、男性?は光の玉をカマキリに向かって勢いよく身体の前へと突き出す。

 その光の玉は一筋の光の柱となってカマキリを貫通する。

 そこに残ったのはえぐれた地面と大きな風穴の空いたカマキリだっだものだった。

 その男性?はこちらに向かって走ってくる。

 近づてやっとわかったけど、身長が低い。というか、見たことある顔なんですけど…。

 「先生!見てくれましたか、俺の術式!」

 「クウガ、あの術式は色々危ないからやめろ。」

 やっぱり、仲谷クウガさんだっだ。

 それにしても、あの波動砲も固有陰陽術式なのか。本当に自身の想像力と発想力が根幹なんだな。

 「とりあえず、鬼界を出ましょう。他にも鬼がいるかもしれないですし。」

 そういうとクウガさんは足のホルスターから一枚の札を取り出す。

 「現世と鬼界きかいを結ぶ門よ開け、救急如律令きゅうきゅうにょりつりょう

 札が空中に停止した後、煙と音を立てる。そこには大きな鳥居が出現していた。

 「お前も前に通ったろ。さっさと行くぞ。」

 俺は言われるがまま、後についていった。

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