第三十一話 ぬらとの通話

 は、はやく理事長に知らせなきゃ!そうしなきゃ、かなたと先生が!

 私—中野桜は全力疾走で学校へ向かっていた。

 明力操作を行い、足の速さを通常の何倍にもしている。

 でも体力が上がるわけではないから、息がきれ肺が痛くなる。

 それでも私は無理矢理走った。

 かなたと先生が助けを待っているから。

 

 学校の柵を飛び越え、理事長室に向かう。距離があまりなく、すぐに着くことができた。

 私は理事長室の扉を何度も叩く。足にも上手く力が入らず、上手く立てない。

 中の様子がわからなく、いるのかが不安になる。

 お願い!出てきて!そうしないと、かなたと先生が!

 数秒後、ガチャッと扉が開いた。

 「はーい。どちら様って、桜さん!どうしたの⁉︎」

 そこから出てきたのは理事長だった。

 私はすぐに状況を知らせようとした。

 でも、肺は限界だったらしく上手く言葉が出ない。

 理事長は私の手を取り、歩くのを手伝ってくれた。

 「とりあえず、息を整えて。かなたくんと紅蓮くんは……。」

 理事長は私の手を見るなり何かを理解したみたいに頷く。

 「そういうことか。桜さんありがとう。伝えに来てくれて。すぐに助けを送るよ。」

 なんで、わかっ、たんだろう?

 あ、れ、身体に力が入らない。眠たくもなってきた。

 「桜さん。安心して寝て。起きた頃には全て終わっているから。」 

 私は理事長室のソファの上で意識を手放した。


 

 『プルルルル—』

 誰だ?せっかく仕事が終わって、帰れるっていうのに。

 俺—仲谷クウガは少し苛つきながら、電話の受話器をとる。

 「はい、陰陽連派遣部・仲谷クウガです。」

 『やぁ、クウガくん。』

 「り、理事長⁉︎どうなさったんですか?」

 『実はね—』

 

 『と、いうわけなんだ。』

 「わかりました。なにが何だろうと先生は俺が助けます。」

 『ありがとう。あと、かなたくんのこともよろしくね。』

 電話が切れる。

 いこう、すぐにいこう。先生は俺が助ける。

 俺は1分もたたずに狩衣に着替え、共有陰陽術式『瞬』を足に使う。

 「おい『糸蜘しぐも』、『瞬』を使ってくれ。他は大丈夫だから。」

 『了解しました。術記憶より『瞬』を実行します。』

 瞬間、光の線が足にまとわりつく。

 よし、これでいけるな。これで先生を助けにいける!

 あと、理事長が何か言ってた気がするけど…。まあ、どうでもいいか。

 先生待っててください!仲谷クウガが今行きます!

 やっと、先生に俺の術式を見せれるのか…。

 少し恥ずかしいな…。

 俺はすぐに部屋を出て、走り出した。

   


 くそ…。切り落とした鎌が小型のカマキリになるなんて!

 鬼の生存能力の高さを甘く見ていた。

 俺—鬼灯紅蓮は二体の小型のカマキリに切り付けられていた。

 何度も避けようとはしているが、カマキリが素早く、目で追いかけるのがやっとだ。

 こんなに近くにかなたがいるから、上手く動けない。

 糸も使えない。

 また糸で切り裂いてしまったら、増えてしまうかもしれないな。

 くそ、傷が痛む。こいつらの体当たりで骨にヒビが入ったかもな…。

 動きが悪くなる一方だ。

 打撃ならいけるかもな。だが、この速さで動くやつを二体同時に相手するのはほぼ不可能に近いな。

 一体だけでも行動不能にもっていけたら、勝てるのに!

 ッッ⁉︎

 俺の肌を異様な空気がまとい、一気に鳥肌がたつ。

 なんだこの異様なまでの妖力は⁉︎

 ここは鬼界だぞ!妖怪がこの世界にいるはずがない!

 それにこの大きさの妖力の持ち主となると今の俺じゃあ、なにも出来ずに死ぬ。

 かなたも危ない!

 しかし、その妖力の塊は俺の方めがけてすごい速さでやってくる。

 そして、妖力の塊は俺の目の前までくると同時に一体のカマキリが吹っ飛んでいく。

 「先生!俺も一緒に戦います!」

 妖力の塊に目を向けるとそこにはかなたが立っていた。

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