第二十五話 陰陽五行

 俺—出雲かなたは理事長室を出て、紅蓮先生、桜と共に地下の教室に戻った。

 「さて、固有陰陽術式を作っていくぞ。前に教えた陰陽五行は覚えているな?」

 「「はい。」」


 陰陽五行—水・木・火・土・金の五つからなる陰陽術式の基礎。

 術式はこの五つの属性からなる。だが、その中にも例外はある。それが無属性である。

 

 「桜の『操焔師』は名前の通り焔を操る術式を得意とするだろう。かなたの『氷結師』も同じように氷を使う術式を得意とするだろうな。」

 俺は氷で桜は焔か。真逆の属性だな。

 しかし、いきなり術式を組めって難しいないか?

 うーん、まずどうやって組めばいいんだ? 

 まだぬらとの術式の訓練はしてないしな…。

 「かなた、心配しなくても教えてやる。だが、まずは目で見たほうがわかりやすいな。今日は俺の『糸蒐者しじゅうしゃ』の固有陰陽術式を見せてやる。」

 先生は手袋を着け、太もものホルダーから札を取り出した。

 「糸操結界しじゅうけっかい 救急如律令きゅうきゅうにょりつりょう

 詠唱が終わると札が先生の両手に溶け、手には銀色の機械が付いていた。

 「これが俺の固有陰陽術式だ。今からこれを使うから目を離すなよ。」

 そういうと先生はおもむろに両手を俺に向けて振り下ろし、胸の前まで手を戻すと勢いよく拳を作る。

 なにをしたんだ?

 指の先から糸が出ていたのはギリギリわかったけど、その先は全然わからなかったな。

 とりあえず、質問してみるか。

 俺は手をあげようとした。しかし、手を挙げるどころか身体を動かすことができなかった。

 「かなた、無理やり動こうとすると身体が傷ができるぞ。いま、かなたの身体の周りに細い糸を張り巡らせて動きを止めている。」

 言われてみると身体中に糸が巻きついてる。す、すごい。まったく気づかなかった。

 これが『糸蒐者』と固有陰陽術式。目には見えにくく、素早く相手を捕縛できる。

 「先生、固有陰陽術式についてはわかったのでほどいてください。痛いですよ!」

 「ああ、すまない。」

 先生が手を少し動かすと糸の感覚がなくなっていった。

 目で見てわかったが、やはり自分の術式を作るとなると難しいな。

 先生は「糸」、俺は「氷」か…。先生のも参考にならないしな。

 「と、このように固有陰陽術式は職業名の通りの術式が多い。作るのには術を使う者の発想力と想像力が必要になる。」

 「発想力と想像力ですか?それと固有陰陽術式となんの関係があるんですか?」 

 俺も桜と同意見だ。想像力や発想力だけでなんとかなるとは思えないしな。

 「そうだな、まずはどんな風に鬼や妖怪を祓いたいのかが大事になってくる。そこからその祓い方にどんな武器や防具があっているのか、それを考える。」

 やっぱり想像力や発想力と関係ないように思えるな。

 「そして最後に武器や防具の具現化。ここに想像力と発想力が必要になってくる。俺の場合は前線で仲間を守りつつ戦うために糸を結界状に展開できるようにした。」

 なるほど想像力と発想力は具現化の時に必要になってくるのか。

 「例えば俺のように糸を操る陰陽師もいるが、そいつは糸を束にして剣や斧にして祓っている。固有陰陽術式は人の想像力、発想力で変わってくる。」

 「なら、私のように炎を使って祓う人もいるってことですか。」

 「ああ、いるとも。だが一人一人違う戦い方だがな。」

 個人の想像力、発想力に固有陰陽術式は変化のか…。

 つまり想像力や発想力の豊かさで変わってくる。俺はあんまりそういうのは苦手なんだけどな…。

 「とりあえず、今からはどのように祓いたいのかを考えてもらう。そこは自分の直感でいいとは思う。理由なんて人それぞれだからな。」

 そういって先生は俺たちに考える時間をくれた。

 

 あれから、1時間たち時間も下校時刻になっていたので「三日後にまた聞く。それまでに考えておいてくれ。まあ、相談なら乗ってやる。」

 と言われ、俺たちは下校した。

 どのように祓いたいか…。よくわからないな。

 俺は前までただの高校生で命懸けのことなんてしたことなかった。

 あの大きくて気持ち悪い化け物と戦うのか。 

 初めて鬼を見た時のことを思い出すと今でも寒気が止まらない。

 あの醜い声と恐ろしい姿。あの時、動けたのが奇跡だと今さら思う。

 だが、初めて妖怪を見た時はなんとも思わなかったな。

 とりあえず、ぬらに相談してみるか。もしかしたら助言ぐらいくれるかもしれないしな。

 

 


 

 

 

 

 

 

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