第二十四話 固有陰陽術式

 『共鳴者』に『氷結師』?何この職業名…。

 「さて、職業名の確認も終わったことだし発表してもらおうかな。と、その前に白銀君、席を外してもらえるかな?」

 「承知しました。」

 白銀さんは一度頭を下げ、部屋から出て行った。

 そして、理事長が机の引き出しから一枚の札を取り出す。

 以前、仲谷クウガが使っていた札と似ているけどちょっとだけ違うかな?

 「かなたくん、桜さん、今から使うのは固有陰陽術式だからね。」

 理事長は札を人差し指と中指の間にはさみ、詠唱を始める。

 『音よ止め』

 すると、札が空中で溶けてなくなる。

 ……何か変わった?何も変化ないように見えるけど。

 「これで私達の声は外にもれなくなったよ。」

 え、マジで?そんなように見えないけど。

 「かなた、桜、大丈夫だぞ理事長の言葉を信じて。」

  紅蓮先生は俺たちの心を読めるのか?

 まあ、先生が言うなら信じるけど…。

 「じゃあ、職業を発表してもらおうかな。あと、かなたくん。少しは僕の話を信じてくれよ。」

 「すいません。」

 ここは素直に謝ろう。ていうか、なんで理事長はわかったんだろう?

 顔には出してなかったはずなのに…。

 「それじゃあ、私からいいますね!えっと『操焔師そうえんし』って書いてあります。」

 桜の職業は『操焔師』か、読んで字の通り焔を操るのかな?

 やっぱり職業は人によって変わるんだな。

 「じゃあ、次は俺ですね。『共鳴者』と『氷結師』の2つです。」

 「きょ、共鳴者!かなた、嘘は言ってないだろな!」

 先生は血眼ちまなこになって迫ってくる。

 え、『共鳴者』ってそんなにやばいの?

 職業が二つが稀だってことは知ってたから、そっちで驚かれると思ってたけどな…。

 「そういえば、紅蓮くんは知らなかったね。かなたくんは二代目共鳴者だよ。このことは極秘だから口外は厳禁だよ。」

 二代目?極秘?訳がわからなくなってきた。

 とりあえず、『共鳴者』がやばいのはわかった。

 「そうだね。固有陰陽術式の話をする前に『共鳴者』の話をしようか。」

 そこからは共鳴者の誕生理由が話された。

 

 昔々、妖怪と陰陽師は争いあっていた。それはとても長く、悲しく、辛いものだった。

 だがその争いを通し、一つの思想が生まれた。

 それが陰陽師と妖怪の共存。

 争わず、平和に共に生きる。

 その思想を持った百夜組総大将・ぬらりひょんと陰陽連・安倍晴明。

 この2人がそれを現実にした。

 そして、陰陽師と妖怪の架け橋の象徴として『共鳴者』を作った。これが『共鳴者』の生まれた理由だ。

 

 「だが、『共鳴者』は何百年に一度くらいしかなれる人がいない。」  

 つまり、その何百年に一度の奇跡が俺になったと…。

 それって、やばくない?

 陰陽師ですらなかった普通の高校生が選ばれるなんて、おかしいよ!

 「『共鳴者』が初めて確認されたのは文献によれば、平安時代に陰陽師として戦われていた安倍晴明あべのせいめい様だしね。」

 「補足を入れると、安倍晴明様は日本の陰陽道を広め、この陰陽連創立を成されたお方だ。」

 そんなすごい人と同じ職業ってやばいよね?俺、なんで選ばれたの?

 「まあ、君が陰陽師として戦える様になるまで公表はするつもりはないから。君もからこれから多くの陰陽師と行動すると思うけど、言わない様にね。急に言うと陰陽連が大慌てになるからね。」

 やっぱり、急に『共鳴者』みたいなすごい職業が現れたらパニックになるのか…。

 「さて、職業もわかった事だし固有陰陽術式について話していこうか。」

 たしか、さっき理事長が使ったのがそうだって言ってたよな。

 それと職業って何か関係してるのかな?

 「固有陰陽術式はその名の通り、陰陽師個人にしか使えない術式のことだ。その術式の属性は職業に由来する。まあ、属性は陰陽五行おんみょうごぎょうと無属性しかないけどね。」

 つまり、職業を理解することが固有陰陽術式を作ることに必須なのか。

 でも、桜の『操焔師』や俺の『氷結師』はわかりやすいけど『共鳴者』ってなんだろう?

 たしか、安倍晴明は「ぬらの宿主になった時点で『共鳴者』となる」っていっていたな。

 『共鳴者』はぬらと関係あるんだろうか?

 まだまだ分からないことが多いな『共鳴者』。

 「『共鳴者』はわからないことが多いから、かなたくんは『氷結師』をメインに術式を組んでいってくれ。桜さんも『操焔師』として術式を組んでいってね。それじゃあ紅蓮君2人をよろしく。」

 「わかってますよ。かなた、桜、教室に戻るぞ。」

 そうして俺たちは理事長室を出た。

  

 かなたたちが出てすぐ。僕—十六夜 繊月は机の上に並んだ書類を片付けていた。

 「それじゃあ、僕も『共鳴者』について色々調べようかな。」

 かなた君が来て初めて『共鳴者』が実在すると確信した。

 『共鳴者』が出現したのは平安以来。

 まさか、僕の世代でくるだなんて本当に驚きだよ。

 『共鳴者』の出現…。つまり、あれが来るのか…。

 十二家じゅうにけには報告をしておいた方がいいな。

 鬼界の鬼も活発化しているし、なんか嫌な予感がするね。

 僕の感は大体外れるからなぁ。

 などと考えていると後ろから急に視線を感じる。

 「誰だ!」

 視線の元に目を向けるが誰もいない。

 僕の気のせい?いや、さっきのは感じ取れるほどに強い視線だった。

 不安が残るな。しかし、考えて過ぎるのも良くないな。

 よし、とりあえず打てる手は打っておこう。

 それにしても、かなたくんと桜さんの成長度合いは類を見ないほど早いね。

 これは調べる価値はあるかもしれないね。

 「ふふ、また楽しくなってきた。2人の成長が楽しみだよ。」

 僕は不敵に笑う。

 「理事長、悪巧みはほどほどに。」

 「ッ!?心臓に悪いから急に現れないでよ、舞香君。いつからいたの?」

 「「ふふ、楽しくなってきた」のあたりから。あと、舞香と呼ばないでください。」

 「相変わらず、つれないね。それにしてもしまらないね。」

 僕は少し苦笑いをした。

 

 

 

 

 

 

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