第二十三話 自分の職業

 「かなたー!起きろー!もう7時すぎてるぞー!」

 私—出雲いずも大智だいちはいつものように階段の下から大声を出し、かなたを起こしていた。

 そして、キッチンに戻り料理を続ける。

 京都に来てからまだ数日しかたっていないが私はここの生活に慣れてきている。

 仕事はやりがいがあり、同じ職場の方とも上手くいっていると思う。

 「おはよう、父さん。」

 制服姿のかなたがダイニングに入ってくる。

 「おはよう。朝飯はそこに置いてあるから、机に運んでくれ。」

 「はーい。」

 いつものように私がご飯を作り、かなたが配膳をする。

 私はお弁当の準備を終わらせて、椅子に座る。

 かなたはいつも私が来るまで待っててくれる。学校を遅刻するかもしれない時間でも。

 「かなた、いつも言ってるが待たなくていいんだぞ。お前も時間が決まっているのだから。」

 「いつも言ってるけど、俺は待つよ。だって家族は二人しかいないんだから。」

 「そうか…。」

 かなたは本当にいい子に育った。かなたが小さい頃に妻—小雪が亡くなり、男でひとつで育ててきた。

 私は何度も何度も考えた。

 もしかしたら、お母さんがいないことがストレスになっているかもしれない。

 もしかしたら、それが理由でいじめを受けるかもしれない。

 そんなことが日々頭をよぎる。

 しかし、かなたはすくすくと育ってくれた。 

 私の前ではいつも笑顔を絶やさなかった。私に心配させたくないからだ。

 かなたは育ってくれた、そんな優しい子に。

 「ご馳走さまでした。父さん、食器はシンクに置いとくね。」

 「ああ、いつも運んでくれてありがとな。」

 「そんなの気にしないで。」

 小雪、かなたはこんなにいい子に育ったよ。君が望んだ通り優しい子に。 

 「それじゃあ行ってきます。弁当いつもありがとう。」

 そう言ってかなたは弁当を鞄に入れて、家を出て行った。

 「ああ、いってらっしゃい。」

 よし、皿洗いをさっさと終わらせて私も出社するか。

 


  桜と俺—出雲かなたはいつものように学校に行き、午前の授業を終わらせる。

 午後からは陰陽師としての授業だ。

 最近は鬼や妖怪との戦い方、共通術式の練習を主に行ってきた。

 昨日、先生は『いつもとは違うことをする。』って言ってたけど何するんだろう?

 そしてチャイムがなり、先生が教室に入ってくる。

 ホワイトボードに大きく固有陰陽術式こゆうおんみょうじゅつしき?と書いたのかな?

 「さて、今日はお前たちに固有陰陽術式を考えてもらう。」

 昼休みが終わり、午後の授業が始まる。

やっぱり読み方は合ってるみたいだな。

 にしても、固有陰陽術式ってなんだ?

 仲谷クウガが使ってた剣を馬鹿みたいに大きくするやつのことかな?

 「だが、それを教える前に理事長室に行くぞ。そこで固有陰陽術式について理事長にお話ししてもらうから。」

 俺たちは紅蓮先生に連れられ、理事長室に向かった。


 紅蓮先生が扉を何度かノックする。

 「鬼灯紅蓮です。かなた、桜、両名を連れてきました。」

 「どうぞ。」

 「失礼します。」

 入ってすぐに理事長に目がいく。

 いや、この言い方だと語弊があるな。

 理事長の服に目がいく。

 何あれ。馬のひづめの柄がTシャツにたくさんあって、胸の部分に「HAWAI」って…。

 まったく関係ないよね、あれ。

 「久しぶり、かなたくん、桜さん。今日はね、職業について話したくてね。」

 職業?固有陰陽術式について話すって聞いてたけど。

 何か関係あるのかな?

 「まずはそうだね、霧雨の水晶を使って職業を調べるよ。その後にちゃんと職業について話すから。」

 理事長は棚から霧雨の水晶を取り出し、俺たちの前に持ってきた。

 「じゃあ、桜さんから水晶に手をかざしてね。僕がいいよって言うまで手をかざしてね。」

 そう言われ、桜は手を水晶にかざす。

 すると霧雨の水晶は空色に輝き出した。

 前に使った時は薄紫色に光ってたな。今回は空色なんだな。

 確か、前の説明の時もう一つ使い道があったはず…。

 次は何色に輝き出すかな。少し気になるな。

 そんなことを考えていると水晶の輝きが収まり出す。

 「はい、もういいよ。次はかなたくんだね。水晶に手をかざしてね。」

 さっき桜がしたように手をかざしてっと。

 俺がかざした瞬間、水晶は輝き出す。

 だが、桜がやった時より輝きが増してる⁉︎しかも、空色じゃなくて真っ白だし!

 光が俺の周りを白色に染めていく。

 

 「私の力を知ってしまうのね…。でも、大丈夫。いつか、真実を知る時が来るからね。」

 この声、どこかで聞いた。いつもそばにいて安心させてくれた声。

 「頑張ってね。私、待ってるから。」

 

 「かなたくん、もういいよ。」

 理事長の声でハッとした。さっきまで寝てた?

 でも、立ったままでねるか、普通。

 それにしても、さっきのは夢?

 でも、やけに現実感があったような…。

 すると、ポッケに入れていた電子生徒手帳が振動する。

 「さて、二人の職業がわかったから電子生徒手帳に登録しといたよ。確認してね。」

 確認してみると、名前の下に職業の項目が増えていた。

 そこには『共鳴者きょうめいしゃ』『氷結師ひょうけつし』と書かれていた。

 

 

 

 

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