第七話 有名職業


 あの子やばい。あの見た目でこの殺意の大きさはおかしい。

 直接殺意を向けられているわけじゃないのに俺たちにも寒気がはしる。

 その男の子は、黒い狩衣かりぎぬらしきもので身を包み、腕・脚・胸には光の線が入っていた。手には歪な形をした短剣が握られている。

 なんだあれ?あんな短剣で化け物に向かうのは無謀すぎる。しかし、そんな不安はすぐになくなった。

 男の子は殺気を向けつつ、脚に取り付けてある何かのホルダーからお札を取り出した。

 「悪穢祓刃あくわいふつとう 救急如律令きゅうきゅうにょりつりょう

 男の子は何かを唱える。途端にお札が輝きだす。それを短剣にかざすと、お札は短剣に吸い取られ無くなる。

 そして、剣がふたまわりぐらい大きくなり光の線が入った剣になる。 

 何あれ?

 お札がなくなっただけで驚いているのに、短剣が倍以上の大きさになるっておかしいって!

 「それじゃ行きますか。」 

 男の子は笑みを浮かべながら、化け物に向かって行った。


 男の子の動きを見て驚いていた。

 俺たちは何も出来なかった化け物をあんな小さな体で一方的に攻撃をしているからだ。

 それに彼の動きは全て常人の域を超えていた。

 「マジでつまんねー。反応は大きかったのにな、ハズレ引いたな。もう飽きたし、次で終わらそうか。」

 彼はホルダーから1枚の札を取り出し、剣にかざす。

 札が光って消えた途端、剣が巨大化した。

 化け物より大きく見える。

 あの子の筋力絶対おかしい。自分の身長の10倍以上の大きさの剣を持ち上げている。

それも、足場のない空中で。

 彼は巨大な剣を勢い良く振り下ろす。

 スパッ!

 化け物に大きな縦線が入る。数秒後には真っ二つになる。

 化け物は斬られてすぐに灰になり消えていった。それと同時にかなたたちを包んでいた光の壁が消えた。


 男の子が近づいてくる。

 俺は「お前は一体何者だ?」と視線を鋭くする。

 「そう警戒するなって。俺は陰陽師。陰陽連第3位 騰蛇とうだの仲谷クウガだ。」

 陰陽師?漫画やアニメに出てくるあの?

 でも、陰陽師が現実で存在したなんてありえないだろ。

「とりあえず、現世に返してやる。ついてこい。」

 そう言うとホルダーからお札を取り出した。

 お札には鳥居が描かれていた。

 片手にお札を持ち何かを言い始めた。そして言い終わると、お札を手から離す。

 お札が空中に止まり、輝き出す。すると鳥居が現れる。

 「鳥居を潜れば、元の世界に戻れる。さっさと潜れ。」

 かなたたちが鳥居を潜るとお化け屋敷の出口のところにいた。

 「ああ、言い忘れてた。今日のことは誰にも言うなよ。言えばそいつも巻き込むことになるからな。」

 そう言うと男の子は忍者の様に消えていった。俺は深呼吸を数回行い、無理やり冷静さを取り戻す。

 「とりあえず、康介のところに戻ろう。そこで休もう?」

 「うん、わかった。」 

 返事をする桜の声はまだ怯えていた。見れば手も震えていた。

 俺は桜の手を引っ張り、歩き始めた。こうしてる方が俺も落ち着くしな。

 康介の元に着く頃には桜の震えは収まっていた。

 

 「遅かったな。手まで握って、そんなに怖かったのか?」

 「い、いやちょっとな。」

 康介の所に戻ってすぐに手は離した。

 しかし、康介がそれを見逃すわけもなくニヤニヤしながら聞いてくる。

 一瞬、今俺たちが体験したことを話そうと考えた。

 だが、彼の言葉が頭をよぎる。

 もし彼の言葉が本当なら、康介もあの地獄の様な体験をするかもしれない。

 そんなことは絶対あってはならない。

 とりあえず、どうにかして誤魔化さないと。

 「ねーもうそろそろ帰ろうよ。私、お化け屋敷で驚きすぎて疲れちゃってさ。」

 桜は俺の気持ちを察したのか、帰ることを提案した。

 「そうだな、もう日も落ちかけてるし帰るか。その前に3人で写真撮って帰ろうぜ。」

 康介はそう言いながら歩き始める。

 3人で歩き始めパークの出口へ向かっている途中で桜が話しかけてくる。

 「さっきは危なかったね。私も状況をうまく理解はできてないけど、康介を巻き込む可能性は無くしたいから…。」

 桜も彼の言葉を思い出していたみたいだな。 

 「そうだな、俺もその可能性だけは無くしたいからさ。さっきはありがとう。」

 これからどれくらい会えなくなるか分からない。

 だから、友達と言ってくれた康介だけは巻き込むわけにはいかない。

 「なに辛気しんき臭い顔してんだよ。これから先どれくらい会えるか分からないだから、写真ぐらい笑いながら撮ろうとぜ。」

 康介は俺らの方を見て笑いながら話しかけてくる。

 その笑顔はとても明るくて、俺たちの不安を一気に無くしてくれた。

 康介は本当にすごいな。笑顔一つでここまで人を明るくするなんて。

 「そうだな。今日の思い出の写真は笑顔がいいな!」

 「私、二人の間がいい!」

 俺たちは遊園地の入り口をバックに写真を撮った。

 その時、3人とも心の底から笑えた気がした。

 

 家に帰ってご飯を食べる。今日の疲れで眠気が一気に襲いかかり、素早く準備を終わらせて就寝した。


 いつも通り夢を見る。

 しかし、違った点があった。男性の下に1つ小さな池が増えていた。

 「今日は寝るのが早いんだな。」

 自称妖怪の主が話しかけてきた。

 「今の共鳴率なら、お前も喋れるだろ、かなた?」

 「何を言っているんだ?」

 嘘。言おうとしたことが口から出た、夢の中で。なにこれ?

 夢の中で喋る感覚はなんな気持ち悪い。

 「やっぱ、共鳴率5%ぐらいいけば喋れるんだな。どうだ?夢の中で喋る感覚は?」

 「なんか、気持ち悪い。」

 「そうか。」

 確かこの自称妖怪の主はぬらりひょんって名乗ってたよな?

 自称妖怪の主は少し笑うと、「かなた、俺は自称じゃなくちゃんとした妖怪の主だ。お前の考えは俺に筒抜けだからな?」

 「え、マジですか?」

 「ああ、マジだ。」

  マジですか…。

 

 「さて、初めてのちゃんとした会話だ。まずは自己紹介からだな。前にも言ったが、俺は妖怪の主ぬらりひょんだ。ぬらって気軽に呼んでくれ。」

 「ええっと、俺は出雲かなた。16歳の高校生だ。えっと、ぬら?はさ、なんで俺の名前知ってるの?会話しはじめたの最近だよね?」

 「ああそれはな…」 

 ぬらは俺にわかりやすく話を聞かせてくれた。

 ぬら曰く、かなたの祖父がくれた人型の紙にぬらが封印されてるらしく、ある時になるとその所持者と会話できるようになるらしい。

 「そのある時ってのは?」 

 俺が話を聞いて率直に思った疑問。ある時とはいつのことなのか。

 今の俺と桜の置かれている状況に関係するのことなら、早く知りたい。

 「話すのはまた今度な。どうせ、俺がいはなくてもアイツの家のやつが教えてくれるさ。」 

 その時のぬらの顔はどこか悲しげだった。

 「それ以外で聞きたいことは?」と話変えた。その時は悲しげな顔はなかった。


 「その、前に一方的に話された時に言っていた陰陽師ってのは具体的になんなんだ?アニメや漫画で見たことあるけど?」

 前から聞こうと思ってはいた。前に桜を助けた日の夜に言っていた『陰陽師になってくれ』と。

 陰陽師についてアニメや漫画でしか見たことがないし、本物がいるとは思っていない。

 「マジで言ってる?あの有名の職業を?」

 「うん、知らない。」 

 「え、マジで?あの頃は子供の夢だった陰陽師だぞ。俺が封印されてる間にどんだけ変わったんだよ日本は。」

 ぬらはぶつぶつと言っている。相当驚いているようだ。

 少しすると咳払いをし、陰陽師のザックリとした説明をしてくれた。

 簡単にいうと妖怪ようかいあやかし、鬼をはらうものらしい。

 「じゃあ、今日俺たちが襲われたものは妖怪か妖なのか?」

 「いや、今日襲われたのは鬼の方だな。」

 あの気持ち悪い化け物が鬼…。想像していたのとは大きく違うな。

 もっとこう、桃太郎に出てくるような鬼を想像していたのに。少し、残念な気がする。

 「桃太郎に出てくるような鬼は存在はするぞ。」

 俺の心をすぐに読み、フォローしてくれた。だが…

 「できれば、すぐに俺の心を読むのやめてほしいな。」

 「あ〜、わかったわかった。」

 ただ軽く返事をするぬら。絶対やめないな、この感じ。

 

 少ししてから、身体に脱力感がくる。

 「さて、もうそろそろ時間だな。明日もここで待ってるから早く寝ろよ?」

 なるほど、現実で寝ればここにくるならその逆も寝ればいいわけか。

 「わかった。明日はもう少し質問するからな。」

 しかし、夢の中で寝るのはなかなか気持ち悪いな。だが、寝るしかない。

 脱力感に身を任せ、一気に目をつむる。そしてすぐに目が覚め、いつもの天井が見えた。

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