第六話 鬼界

 どうしてこうなった?なぜ桜と二人でお化け屋敷にきてる?

 どう考えても康介のせいだ!何が「俺はちょっと一人で行きたい乗りものあるから。お前らはお化け屋敷でいちゃついとけ。」だ!

 悪企みしてたのは、こう言うことだったのか。にしても、桜もあんなこと言われて何も言わなかったな。無言で頷くだけだったし、少し耳の先が赤かったしな。

 そんなに寒かったか?まぁいいか。折角の康介が作ってくれたチャンスだ。少しくらいは有効活用しなきゃな。

 

 お化け屋敷の中に入って数分。二人ともまったく楽しめていない。本物見ていたら、まったく怖くない。

 桜なんて驚くのおの字もない。ほんとに桜はすごいな。初めて化け物見た時も発狂しなかった。

 これ康介の作ってくれたチャンスも無駄にしそうだな。

 

 お化け屋敷の真ん中くらいにきた時だった。俺と桜にもわかるくらいに空気が重くなった。

 なにこれ。今まで感じたことのない悪寒が全身をめぐる。

 「すぐにここから離れよう。」

 「うん。」

 俺たちは、走ってお化け屋敷を抜けようとした。

 でも、もう遅かった。

 パキッ!

 何かが割れる音が俺たちの耳に届く。そしてその音は段々と数を増やし、俺たちに近づいてくる。その音の中には不気味な声も混じっている。

 この音に追いつかれるのはやばい。本能的にそう思った。

 でも、間に合わない。その音は俺たちを包み込んだ。

 俺たちは目をつむる。次に目を開けた時には、ドス黒い赤色一色で作られた世界にいた。


 かなたたちがお化け屋敷に入る数分前。

 俺—仲谷クウガの携帯に電話がかかってきた。『クウガ、向こう側の世界に強い汚気おきが検知された。この強さは現世にも影響を与えかねない。至急、討伐に向かえ。』

 「了解!」と素早く返事をし電話を切る。

 そしてすぐさま裏路地に入り、一枚のお札を取り出した。

 そこのはシンプルな鳥居が書かれているだけだ。あえていうなら、鳥居の下には狐が二匹描かれている。

 俺は右手にその札を持ち詠唱を始める。

 「現世と鬼界きかいを結ぶ門よ開け、救急如律令きゅうきゅうにょりつりょう。」

 俺はお札を手から離す。

 その札は地面に落ちず、空中に停止する。

 停止から数秒。お札は煙と音を立て、するとそこには、潜る場所が黄色に光った大きな鳥居が出現した。

 「さて、どんなに強い敵かワクワクするな。」

あぁ、とても楽しみだ。実戦ほど力をつける方法はないからな。

 クウガは不敵に笑い鳥居を潜った。

 

 ここはどこだ?お化け屋敷にいたはずなのに。横には桜がいる。

 にしても苦しい。呼吸をするたびに身体の中が蝕まれていくのがなんとなくわかった。

 見た感じ、桜も一緒だ。臭いも酷く、生肉が腐ったような悪臭だ。

 とりあえず、出口を探そう。俺は服で鼻を押さえつつ、左手で桜を引っ張った。

 「とりあえず、移動しよう。俺も何が起こったのかわからない。でも、じっとしていることが一番危ない。」

 「わかった。」

 俺たちは移動を始めようとする。でも、すぐに異変に気づく。

 地面が揺れてる?ドシン、ドシンとわかるくらいに揺れ始める。

 その音は次第に大きくなる。そちらの方へ恐る恐る顔を向ける。

 そこには下半身が蜘蛛で上半身が赤ん坊のような現実ではあり得ない形を象った化け物がいた。

 やばい、逃げなきゃ。本能では分かっているのに身体が動かない。

 身体が化け物から放たれるプレッシャーに畏怖してしまっている。

 桜は呼吸すらままならない。

 「めえぇぇぇしぃぃぃ、おれぇぇぇのぉぉぉ」

 化け物は俺たちに視線を向けるなり、捕食対象として認識した。

 そして、化け物の脚が桜に向かって飛んで行く。

 桜は動くことが出来ずにいる。

 助けなきゃ、動いてくれ。動いてくれ俺の脚!もう、俺の前で桜が傷付くのは嫌だ!

 次の瞬間、桜と化け物の脚の間に立っていた。

 命を捨ててでも、守ってみせる!

 しかし、その怖さには耐えられずに目をつむる。

 だが、待っても待っても攻撃がこない。攻撃をやめたのか?

 目をゆっくりと開ける。俺の目の前には、水色に輝く壁がある。

 なんだこれ?俺と桜を囲んでいるのか?

 攻撃は壁に阻まれて俺たちには届いていなかった。

 しかし、壁に囲まれた空間にいるだけで呼吸が楽になった。身体を蝕んでいたものがなくなったようだった。

 ザッザッザッ。

 後ろの方から足音が近づいてくる。

 誰だ?足音は人のものだ。でも、こんなところに人がいるはずがないだろ!

 「お前らはそこから動くなよ。」

 声の主は俺たちの横を通り過ぎ、化け物に向かって行く。

 何者だ?どう見ても男の子だよな?中学生くらいにしか見えない。

 「おい!危ないぞ!」

 しかし、男の子はただ化け物を捕らえている。

 化け物は視線を男の子に向ける。

 視線を向けた瞬間、化け物は俺たちにもわかるように声を発した。

 「おぉぉぉぉんみょょょょじぃぃいぃい!」

 化け物は身体から無数の手を生やし攻撃を仕掛ける。 

 「脅威度Cランクの雑魚だが、俺を少しは楽しませてくれよ!」

 男の子は化け物に殺意を向けた。

 

 

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