第五話 思い出作り

 目が覚めると部屋の時計は、午前9時を指していた。

 やばい!遅刻してる!

 慌てて学校の準備を済ませ1階に降りる。 


 すると、不意に後ろから「なにしてるんだ?」と声がかけられた。

 親父だった。

 「何をって、そりゃあ、学校の準備だよ!なんで起こしてくれなかったんだよ!確実に遅刻じゃん!」

 机の上に置いてあったパンをくわえて急いで靴を履き始める。


 しかし親父の静止の声がかけられた。

 「何を言っているんだ?今日から荷造りするから学校を休ませるって言わなかったか?」

 「………そうだっけ?」

 思い返してみるとそうだった。やばい、とてつもなく恥ずかしい。

 「そうだな。京都に転勤だなんて、夢だと思うよな。さっさと着替えて荷造り手伝ってくれ。」

 親父は少しフォローしてくれた。

 少し顔を赤くしながら、うなずき自分の部屋に戻った。


 着替えを終えて親父のところへ行くと、玄関で誰かと喋っていた。

 よくみると桜の父親だった。後ろには桜もいる。

 「とりあえず、うちに上がってください。お茶でもだしますから。」

 「じゃあ、お言葉に甘えて。」

 そう言うと親父は、桜たちを客間へ案内した。


 「それにしても、転勤先が一緒だなんて、娘から聞いた時は驚きましたよ。私の転勤が決まった時に、挨拶に行こうと妻と話していたら、娘が出雲さんの家も転勤すると言ってきたものですから。」

 「そうなんですか?私は息子から何も聞いていなかったものですから、今驚いてますよ。近くだといいですね。」

 俺だって昨日聞いてとても驚いたよ?

 それに教えようとしたけど、親父が書類を書いていたから言えなかっただけだ。

 そこから、30分近く親父たちは会話を続けた。

 その間、俺と桜は俺の部屋で遊んでいた。その時に康介も今日遊びに行けることを知った。

 本当によかった。今日は思いっきり遊んでやるぞ!


 二人でゲームをしていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

話がひと段落ついたらしく、桜たちは帰るらしい。

 「では荷造りがまだ残ってますので、失礼します。」と言って桜たちは帰っていった。

 桜たちが家から出るとき、桜は手を振ってきた。

  「じゃあね。」

  「じゃあな。どうせ昼に会うけだな。」

 俺も早く荷造り終わらせよう。

 

 昼ごはんを食べ、遊びに行く準備をする。親父に不意に後ろから声をかけられる。

 「かなた、小遣いをやろう。」

 お小遣いなんて珍しい。遊びに行くときは自分の月のお小遣いでやりくりしてたから。

 まあでも、貰えるのならありがたい。

 そして、もらったお小遣いに目を向ける。

 そこには諭吉さんがいた!それも二人!

 「うそ⁉︎なんでこんなにくれるの?なんかの記念日?」

 「今日で康介君と桜ちゃんと3人で遊べる日はないだろ?そんな大切な日はいい思い出にしなくちゃな。

 それに私の仕事だからといって、いきなり引っ越すことになったこと本当にすまない思っているんだよ。」

 親父の顔は申し訳なさで少し暗く感じる。

 「そんなに気にしなくていいよ。康介も桜も、しっかりわかってくれたから。それに、一生会えない訳じゃないから。」

 桜は京都に引っ越すからまだ会いに行ける。でも、康介はそう簡単に会えにいけない。

 しかし、康介は「京都に行っても友達だ」と言ってくれた。それだけで、一気に気が楽になった。 

 

 「それじゃあ、行っても来ます。」

 「おう。しっかり楽しんでこいよ!」

 家を出たのは1時過ぎ。待ち合わせ場所までは数分で行ける。

 

 着いた頃には二人とも来ていた。

 「かなたも来たことだし、行きますか!」

 「「おう!」」

 俺たちが向かうのは近くの遊園地。平日なので人も少ないし、お金の心配もない!遊ぶのには申し分ない好条件!いっぱい遊ぶぞ!


 「さて、最初は何に乗ろうかな?」

 入った瞬間に康介が言った。さて何に乗ろうか?

 考えながら歩いていると目の前にジェットコースターが目に入る。

 「ジェットコースターとかどうだ?並ばずに乗れそうだし。」

 二人に提案した。しかし、二人からは本当にいいのか?って顔に出ている。

 「大丈夫か?お前、前もその前もいける!って言って吐きかけてたじゃないか。」

 康介は不安を直接言ってくる。

 中学のときは吐きかけてたけど、高校生になったし行けるだろ。

 この前乗った時もこんな理由だったかな?

 まぁ、大丈夫だろ。

 「大丈夫!今日は思い出作りなんだから、そんなこと気にすんなって!とりあえず、行こう!」

 俺は二人の手を引きながらジェットコースターに向かった。

 

 「やばい、吐きそう…。」

 無理でした。あの遠心力だけはどうしても慣れない。

 薄々気づいていたけど、俺絶叫系の乗りものだめだ。

 「だから、大丈夫か?って聞いたのに。」

 「かなた大丈夫?」

 康介は残念なやつを見る目で俺を見る。桜は俺の背中をさすってくれていた。

 仕方ないだろ、いけると思ったんだから。

 「とりあえず、椅子に座りたい。」

 そう言うと康介は肩を貸してくれた。


 「だいぶマシになったよ。ありがとう。」

 椅子に座って休んでいると、康介が飲み物を買ってきてくれた。喉の気持ち悪さを飲み物で洗い流した。

 にしても酷いな。一応思い出(黒歴史)を作れたけど、ただの笑い話だな。

 「さて、かなたもマシになったことだし次何に行く?」

 どうしたものか?もう絶叫系はなりたくないしな。となると、観覧車らへんかな?

 俺だけじゃあ決められないし、康介に話をふってみるか。

 俺は康介に視線を向けた。そこには悪企みしている康介の顔があった。

 やばい、こいつ絶対変なこと考えてる。康介が話をふってくる前に俺が桜に話をふろう。

 「桜、かなたと一緒にお化け屋敷にでもいってきたらどうだ?」

 遅かったか…。


 

 

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