第二話 夢の中の男性の正体

 「桜を離せ!」

 そう言いながら突撃した。

 桜は化け物に強く握られ、気を失っている。

 化け物は叫びながら近づく俺を気にも止めなかった。

 少しくらいこっちみろよ!

 木の棒でフルスイングする。何度も何度も触手に打撃を入れる。だけど傷ひとつつかない。

 なんなんだよこいつ!もっと強く叩けばいいのか⁉︎

 俺はさらに棒を強く握りしめ、たたきつける。

 化け物も鬱陶うっとうしく思ったのか、触手を使って攻撃してきた。

 俺が避けられるわけもなく、触手を直に受けてしまった。

 肺の空気が強制的に体外に出される。

 さく…ら…

 俺は気を失なってしまった。

 次に目を覚ました時、慌てて桜を探した。

 俺はどれくらい気を失っていた?あれからどうなった⁉︎桜は⁉︎

 ふと体に重みを感じ、視線を下に向けると桜がいた。

 これってどういう事?



 かなたが気を失っている時、耳元にインカムをつけた少年—仲谷クウガが手をインカムに手を当てながら走っていた。

 「こちら仲谷。山の山頂から強い妖力を感知した。今から調査に行きます。」

 『こちらでも確認できた。この大きさは危険だ。見つけ次第討伐しろ。』

 「了解。」

 クウガは短く返事をすると『瞬』と書かれた二枚の紙の札をとりだした。

 「瞬足到来しゅんそくとうらい 救急如律令きゅうきゅうにょりつりょう」と叫び紙の札を足に当てる。

 札に書かれていた『瞬』の字が浮かび上がり、光の線になり足にまとわりつく。

 すると、さっきとは比べものにならないぐらいの速さで山に向かった。


 山頂に着くと、クウガは目を疑った。

 巨大な化け物と木刀ぐらいの木の枝で戦っている少年がいたからだ。

 ここまでなら職業柄、妖怪に対して無謀に挑む奴は少なからず見てきているのでクウガは驚きはしない。

 しかし、そこで戦っている少年は普通の少年と違った。動き方が一般人の域を超えていたからだ。

 クウガはすぐに耳の機械に手を当て、ありのまま報告する。

 『何をいっている?そんなわけないだろう。』

 だが、機械から『映像出ます。』と言う声とそれを見て何も言えなかった指揮官の唾を飲む音がした。 

 『…あいつを観察しろ。こちらの映像では、ノイズが走っていてはっきりとした姿が見えていない。特徴などわかることは教えろ。』

 「了解。」


 「身長は170cmぐらい。髪の色は白色です。また、ほんの少しですが妖力も感じます。」

 クウガは細かく情報を言っていく。

 しかし、機械からノイズ音が聞こえ通信が切れた。

 クウガは驚きながらも、戦う少年を観察し続けた。

 理由は二つ、指揮官からの命令があったからだ。

 もう一つは少年の戦い方に魅了させられてしまったからだ。

 のらりくらりとしているのに、敵の攻撃を避け、攻撃するときはしっかりと傷を与えている。

 しかも、捕われている女の子に攻撃が向かないようにしている。


 観察を続けていると段々と傷が増え、化け物が弱り始めた。

 少年は不敵に笑う。

 「これで終わりだな。」

 少年に握られている木の枝に黒の炎を纏わる。

 その黒炎は凄い熱量があり、距離があるクウガの元にまで熱気が伝わってくる。

 炎が黒い軌跡を描きながら、化け物に強く振り下ろされる。

 触手が切り裂かれた瞬間、炎は勢いよく燃え上がり化け物を包んだ。

 化け物は瞬く間に炭になり、捕われていた女の子を抱えると、すぐに木の下に座り込む。

 そして、クウガが瞬きをした一瞬に普通の高校生の見た目になっていた。

 クウガは、なんとかその高校生についての情報を調べようと近づこうとする。

 『クウガ!クウガ!応答せよ!』

 手をインカムにあて、応答する。

 『すぐその場から離脱せよ!』

 クウガは戸惑いつつも、指揮官の指示に従い山から離れていった。


 

 俺が目を覚ますと、腕の中に桜がいた。

 なんで?俺なんかした?

 でもよかった、本当によかった…。桜が無事で。

 でも、あの化け物は何だったんだ?それに俺が握っていた木の枝はなんか黒焦げになってるし…。

 そんなことを考えていると桜が目を覚ます。

 「ここは?」

 俺はそれを無視して桜を強く抱きしめた。

 あぁ、よかった。本当によかった。ちゃんと生きてる。

 桜が顔をだるまのように赤くする。

 「え!?どうしたの!?」

 「なんでもねぇよ。とりあえず家にかえろう。」

 桜はなにも覚えていないかのように、首を傾げていた。

 とりあえず、桜と一緒に鞄を取りに行き帰路についた。

 その時に「何かあったの?」と何度も聞かれた。

 あんなに強く抵抗していた桜が忘れるなんて、どういう事だろう?

 よくわからないけど、その時の記憶が戻るまでは黙っておこう。

 でも俺が話せる事なんて気を失ったくらいなんだけど…。

 


 その夜も、夢を見た。

 しかし、いつもと少し違うかった。男性が桜の木の下に立っていた。

 こんな桜いつもはなかったのに。

 「やっと話せるようになった。」

 その声は目の前の男性からだった。

 え?これって夢だよね?夢の中で喋れるの?

 「すまんな、今は一方的にしか話せないんだ。だから、一方的に話す。俺の名前は、ぬらりひょん。昔、京都を治めていた妖怪の主だ。」

 いきなり男性は、ぬらりひょんと名乗った。

 ぬらりひょんってアニメや漫画で出てくるあの?

 「今から、真面目の話をする。かなたと桜のことについてだ。お前たちは、多分陰陽師どもが勧誘に来る。化け物に襲われれば、化け物が見えるようになるからな。……そこでお願いなんだが、出来れば二人とも陰陽師になってくれ。理由は……また今度話す。もう時間みたいなんでな。」

 って、一番大事なところでしょう⁉︎

 そんな俺のツッコミは意味無く、空間が白く染まる。

 目が覚めた時にはいつもの天井が見えた。

 

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