陰陽百鬼

Moi

第一話 プロローグ

 『妖怪』それは昔、日本に存在したとされているものたちだ。今でも伝承や都市伝説として残っているものも存在している。

 その中でも有名なものは、百鬼夜行を率いていたとされている妖怪の主『ぬらりひょん』。

 『百怪図巻』や『百鬼夜行絵巻』にも描かれている。

 これは陰陽師の少年と妖怪の主の紡ぐ、人と人ならざる者の物語。



 暗闇の中、光に照らされた一本の大きな桜の木。その舞い散る花びらの視線の先、颯爽とたたずむ和服姿の男。そして、その場所にいる俺—出雲いずもかなたは、その男を見つめる。

 男は、こちらに向かって何か言っている。なにを伝えようとしているの?

 だが、俺はそれを聞けなかった。

 しかし一方で男が伝え終わった後に不思議と安心感があった。


―――そして、気が付けば朝を迎えていた。

  

 学校が始まる。それを聞くことは、とても憂鬱さを感じてしまう。

 あるものは、月曜の朝からクラブの朝練。またあるものは、休み気分が抜ききれずギリギリに門に入るものなど様々である。

 そして、俺はいつものように、余裕を持って登校するのであった。


 教室で本を読み始めてから数分後、後方から声がかけられた。 

 「今日も相変わらず早いなぁ〜。」

 「ほんと私にもその早起き機能貸してくれない?」

 声をかけてきたのが、同じクラスの本田ほんだ康介こうすけ中野なかのさくらだった。

 「俺も、早く起きたくて起きてる訳じゃないんだがな〜。」

 俺は苦笑しながら返した。 


 早く起きてしまうには、訳があった。

 それは、約1年前のことだった。俺が中学3年生だったころ、よく一人で祖父の家に遊びに行っていた。

 そしていつものように遊びに行ったある日。

 「いいものを見せてやろう。」 

 祖父は俺を奥の部屋まで連れて行ってくれた。

 普通の部屋ではなく、隠し部屋といってもいいくらいの部屋だった。

 祖父の家はとても広く、使われていない部屋もいくつもあった。

 だが俺が連れてこられた部屋は本を並べ替えたり、スイッチを順番に押したりと複数のトラップを解いていかないといけなかった。

 じいちゃんの家ってこんなだったの?

 俺ずっと来てたけど全く気づかなかったよ?からくり屋敷もいいところだよ…。

 その部屋には何かを囲むようにしめ縄が複数飾られ、壁には数種類の札がびっしり貼り付けられていた。

 その中心には大きな台座と小さな木箱が置かれていた。 

 なにここ?体が少し重く感じる。

 「かなたはここでまっとれ。」

 そういって祖父は台座に近づき、木箱を持ち上げた。

 空中で指を素早く動かす。

 今なにをしたの?背中で隠れていてよく見えなかった。

 祖父は手に何かを持って近づいてくる。

 「じいちゃん、それはなに?」

 正直怖かったけど、好奇心の方が勝ってしまった。

 祖父が持っていたのは古びた木箱。

 祖父は俺に近づき木箱を開け、中身を見せてくれた。

 その中には、手のひらサイズの胸に星が描かれた人型の紙、いわゆる形代に紐がついたものだった。

 「これは?」

 「お守りじゃよ。」

 祖父は少し悲しげに答えた。俺がそんな祖父を見たのは、初めてだった。

 だが祖父は何もなかったかのように、その木箱ごと渡してきた。

 「これをつけて毎日生活しなさい。」

 そう言った時の祖父は、とても真面目でかなたも驚くほどだった。 

 そして、結局祖父の勢いに負けた俺はそれをつけて生活することになった。

 しかし、つけて生活し始めるとその日から夢に和服姿の男が出るようになった。

 それが原因で早く起きるようになったしまった。 


「というかさ、かなたっていつもその変なの首からかけてるよね?」

 「これは、俺の祖父がくれた大事なお守りだから、つけとけばお守りの効果上がるかなってさ。」

 祖父の勢いに負けて付けているなどいいたくなかった。

 「そんな訳ねーじゃん、お前ってほんと面白いな〜。」

 康介が笑っているとチャイムが鳴った。



 「いーや、かなたも情けないな〜。」

 康介が体育の休憩時間に話しかけてきた。

 「うるっさい!俺だって心の準備が必要なんだよ!」 

 「そういいながら、1年以上準備してるんだもんな。いっそのこと玉砕覚悟で桜に告白して、楽になったらいいんじゃないか?」

 康介の言う通り、俺は桜のことが好きだ。

 だが、勇気を持てず告白できないでいた。

 もし、告白して今の関係が崩れてしまうと思うとどうしてもな…。

 「そんなに言うなら、今日こそ告白してやる!」

 「今、言い切ったな。なら今日は、2人でかえりな。俺は、桜に適当に理由つけて、先帰るから。」

 康介はニヤニヤしながら言ってきた。


 「まじかよ。」

 それがいつもの待ち合わせ場所での俺の一言目だった。

 あいつマジで帰ったな…。

 「何が?」

 「いや、こっちの話。じゃあ行こうか。」

 2人で夜の街灯の下を歩いていく。会話は、いつものように今日の学校の話。

 男は根性!

 俺は桜を呼び止めた。

 桜はこちらに振り返った。

 途端に心臓の鼓動が跳ね上がる。ドクドクと激しい音が耳に届く。

 やばい、頭がパンクしそう…。

「お、俺は、ず…ずっとお前のことが!」

 告白の言葉を言おうとした時、桜の腹の部分に何か変なものが巻き付いているのに気がついた。

 とても大きく、触手なようなものだ。

 「桜、それなんだ?」

 さっきまでなかったのにこんなの。触手?

 「それってどれ?」

 桜には見えてないのか?

 次の瞬間、桜が宙に浮きそのまま山の方へと物凄い速度で引っ張られっていった。

 え、なに?目の前の出来事に理解が追いつかない。

 「かなた、助けて!」

 桜の叫び声で頭が冷静になる。

 「桜!」

 鞄を放り投げ、桜を追いかけた。


 俺は、桜を見失いかけながも必死で追いかけ続けた。そして、近くの山の山頂に着く。 

 そこには、桜と触手がたくさん生えた化け物がいた。

 俺は怖くてしかたなく、木の影にかくれていた。

 なんなんだよ、あれ!どう見ても、この世の生物じゃない。

 桜は足をばたつかせながら、抵抗し続けている。

 俺はなにをしているんだ!

 桜は見えていないのに、化け物相手に抵抗し続けている。

 桜を守れないで何が告白するだ!こんなんじゃ、桜に顔を見せられないじゃあないか!

 両手で顔を叩き、なんとかして恐怖心を押さえ込む。 

 すぐ横にあった木刀ぐらいの長さの木の棒を手に取り、立ち上がる。

 剣道なんて習ってないけど、化け物に挑むんだ。なにもないよりもましだ。

 そして一気に化け物に向かって走り出した。

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