第二章
嫌な夢をみた。今私が寝ている病院には祖母の看病で何度も来た事がある。ここの匂いが思い出させたのか、何かの暗示なのかは分からないが、八年前の私たち兄弟にはあまりにも衝撃的な事実を知ることになった日の夢だ。
物心付く前から私たち兄弟は母方の祖母と三人で暮らしていた。無邪気な兄弟は一度だけ祖母に尋ねたことがあった。
「どうして俺たちにはママとパパがいないの?」
それを聞いた祖母は悟ったような表情で、
「圭介と拓哉のママとパパはね、拓哉が生まれてすぐに事故でいなくなっちゃったのよ。」
語調を変えることなく、元々用意していた文章を読むかのように話した。その様子をみた私たちは,、幼いながらにこれ以上聞くべきではないと察した。
「そうなんだ。」
とだけ言い、気まずさから逃げるように兄弟部屋に駆け込んだ。それから私たちは祖母に両親の話をしないという暗黙のルールができた。
時は流れ丁度今から八年前その不文律は祖母によって破られた。私が所属しているテニス部の練習が始まろうとしている時、顧問が大慌てでコートに入ってきた。
「しまった、サボりすぎたか・・・」
とやる気のない部長がベンチから立ち上がると、
「水原!ちょっと来い!」
中年の野太い声で私の名前が呼ばれた。
「拓哉、何かしたのか?」
ニヤニヤした部長がからかってくる。
怒られる覚えのない私は面倒くさそうに顧問のいる方向に歩いていくと、
「水原!走れ、早くしろ!」
再び野太い声がコートに響く。仕方なく駆け足で顧問の所にいくと、先ほどとは違う落ち着いた声で
「さっき、おばあさんが倒れたそうだ。今から俺が病院へ送るから、車に乗れ。後は・・・」
その後も顧問は何か言っていたような気がするが覚えていない。車に押し込まれるように乗り込み、移動すること数分、数十分、数時間。いや、数秒だったのかもしれない。私の頭の中は祖母のことで頭がいっぱいで、気がつくと病室のドアの前に立っていた。急いで中に入ると沢山の無機質な管に繋がれた祖母と兄が話しているところだった。
「あら、拓哉も来てくれたのかい。心配かけてごめんね。」
祖母はいつもと変わらない明るい笑顔で話しかけてきた。その姿を見ると私は緊張から開放され、空気が抜けたかのようにその場に座り込んだ。
「なんだ、元気じゃん・・・」
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